2018年4月20日 (金)

焦点・13年目の滝沢歌舞伎

東京・新橋演舞場の4,5月公演は「滝沢歌舞伎2018」。多数のアイドルを抱えるジャニース事務所のエース級、滝沢秀明を座長とする公演で、今年で13年目という。4月10日に拝見した。
今回の特色は一部、二部ともショー形式にしていること。前回までのような歌舞伎名場面は影を潜めている。滝沢座長以下かっこいい若者たちが、きらめく光線の中、にぎやかなロックに乗って歌い踊る。時に客席の上を勢いよくフライングで飛ぶ。派手な舞台が続くかと思えば、滝沢が甘美な声でヒット曲「WITH LOVE」をたっぷり聴かせ、観客の心を揺さぶる。滝沢と三宅健を中心にした和太鼓の乱れ打ちは見ものであり聴きものである。本公演おなじみの源義経は洋服姿になった。小判を降らせ立ち回りで見せる鼠小僧は時代劇姿で、これまで通りだ。そして女性客のスタンディングオベーションで幕。
一段と派手になったこの公演について、滝沢はパンフレットで虹をキーワードにしたと記している。色で例えるならこれまでは朱色や淡い藤色など和のイメージだったが、今回はショッキング・ピンクやショッキング・イエローなどはっきりした色も加え、すべてを調和させる、と。それは2年後の東京オリンピック・パラリンピックを視野に入れてのことらしい。
結構なことだが、筆者は古典を乗り越え、新しい傾き(かぶき)を想像する原動力にしてほしいと願う。
さて、今回の滝沢歌舞伎で注目したことがもうひとつ。それは名古屋の老舗大劇場・御園座の再開場こけら落としで上演されることである。四月の高麗屋三代襲名大歌舞伎、五月のスーパー歌舞伎Ⅱに続いて、六月に滝沢歌舞伎。こう並ぶと松竹は滝沢歌舞伎を第三の歌舞伎として認識していると見るべきだろう。滝沢が三大歌舞伎のひとつに選ばれたと喜ぶのもむりはない。=敬称略(伝統文化新聞にも掲載します)

2018年4月 9日 (月)

四月大歌舞伎評

今月は菊五郎、仁左衛門の大看板が、それぞれ昼の部、夜の部で国崩し、小悪党の敵役二役を演じている。円熟期も今がおそらく頂点であろう2人が歌舞伎の醍醐味を堪能させた。
昼の部は中堅若手による「西郷と勝」から。真山青果作「江戸城総攻」を基に、松竹芸文室が改訂し、大場正昭が演出。
江戸城の無血開城を実現した西郷隆盛と勝海舟の人物の大きさを描く作品で、松緑が西郷、錦之助が勝を熱演した。このところ役者ぶりを大きくしている松緑なので期待したが、西郷にはまだ届かない。豪傑笑いがいささかむなしい。錦之助も敵役で線の太さを見せているので期待したが、勝にしてはまだ線が細い。
脇の若手が健闘した。彦三郎の山岡鉄太郎、坂東亀蔵の中村半次郎、松江の村田新八。
続く「裏表先代萩」は「大場道益宅」から「仁木刃傷」までの伊達騒動物の通し。乳人・政岡や執権・仁木弾正の活躍する時代物「伽羅先代萩」と、仁木に毒薬を渡した町医者・大場道益が下男・小助に殺される世話場を交互に上演する、菊五郎家ゆかりの作品。
当代の菊五郎が下男小助と仁木弾正。小気味よく動く小助と悠然と「床下」から逃げ去る大悪人の仁木を鮮やかに演じ分けた。
時蔵の政岡。「伽羅先代萩」では主役とも言える女形の大役。忠義と子を失う悲しみの落差で見せている。
錦之助の細川勝元。「伽羅先代萩」と違い、捌き役の見せ場はないが、物語の締めくくり役としての責務を果たした。孝太郎が下女お竹と沖の井の二役で、そのうちの道益に横恋慕されるお竹はいじらしさや芯の強さがあり好演。
松緑の倉橋弥十郎が小助との対決でいい捌き役ぶり。前演目の西郷は今ひとつだったが、こちらはしっかり小助をねじふせる。これなら、「伽羅先代萩」の捌き役・細川勝元をうまくこなせるか。期待したい。彦三郎の荒獅子男之助は立派。荒事役者であることを感じさせる。
東蔵の忠義な渡辺外記左衛門、萬次郎の威圧的な栄御前、彌十郎の憎々しい八汐。いずれも個性を発揮しつつ芝居を盛り上げた。各役の相乗効果で見応えのある通しになった。
夜の部はお家騒動に敵討ちを絡めた鶴屋南北作「絵本合法衢」の通し。
仁左衛門が本家・多賀家の横領を企む左枝大学之助と大学之助に瓜二つの小悪党・立場の太平次の二役。この二役を当たり役とする仁左衛門は大学之助では持ち前のよい口跡をにごらせ大敵ぶりを示し、太平次では軽妙な動きで小者ぶりを見せる。自ら監修もし、一世一代と銘打っているが、それにふさわしい出来で、悪の華を咲かせる。
しかし、殺し場に続く殺し場で、脇の熱演にもかかわらず物語が浅い。したがって、昼夜の比較をすれば、主役は仁左衛門、作品は「裏表先代萩」というところ。
時蔵のうんざりお松と弥十郎妻・皐月。錦之助の与兵衛、孝太郎の与兵衛許嫁・お亀。彌十郎の高橋瀬左衛門と高橋弥十郎。
3日所見。

2018年3月28日 (水)

焦点・野村萬斎・裕基で父子獅子の舞

野村萬斎が3月25日、東京・国立能楽堂で開かれた狂言ござる乃座57th公演で興味深い作品を初演した。前回公演では物語性の高い新作狂言「なごりが原」を披露したが、今回は軽業で狂言の原点を探る。進化を続ける狂言師である。
まず公演全体を紹介する。前半は萬斎が父・万作、子息・裕基と三代で共演する「佐渡狐」に始まり、門弟による「苞山伏」、連歌で競う萬斎・石田幸雄の「富士松」の狂言三番。80代の万作から10代の裕基まで万作ファミリーの品のいい笑いが響く。後半は舞三番。野村太一郎の小舞「海老救川」、万作の小舞「芦刈」。そして最後に試演として注目の「狂言獅子 双之舞」を初演したのである。
太鼓と笛の一調一管で越後獅子の白獅子と赤獅子が登場、側転や倒立などアクロバチックに舞い踊る。萬斎が白獅子で裕基が赤獅子である。赤獅子は舞台から橋掛かりに向かって派手に欄干越えも披露する。鼓も入って祝祭劇は終わる。身体を駆使する狂言らしい演技に感動すら覚える。
越後生まれの聟が舅に乞われ越後獅子を舞う狂言「越後聟」の舞の部分を取り上げたのだが、白獅子と赤獅子、即ち親子の2人を登場させたのがミソ。萬斎のアイデアだろう。萬斎の念頭には能「石橋」の白頭、赤頭があったようだ。しかし、布を垂らす越後獅子と長い毛を振る歌舞伎の獅子とは姿かたちも内容も異なるが、筆者は歌舞伎の「連獅子」と重ねて見てしまった。今年大学生になる息子・裕基を厳しく鍛えようという萬斎の親の思いが伝わる小品であった。
=敬称略(伝統文化新聞にも掲載します)

2018年3月15日 (木)

国立劇場三月歌舞伎評

花形2人がお家芸に挑戦する。芸を継承させる意義ある公演だ。
最初は鴈治郎家ゆかりの「増補忠臣蔵」。東京では珍しい上演。「仮名手本忠臣蔵」に登場する桃井家家老・加古川本蔵の下屋敷が舞台で、九段目「山科閑居」の直前の話として増補している。
桃井家の奸臣・井浪伴左衛門成敗や塩冶判官の弟・縫之助を慕う若狭之助妹・三千歳姫など楽しめる書き加えがなされているが、その中心は主君・桃井若狭之助が高師直に賄賂を贈った家老・本蔵を許し、虚無僧の装束と高家絵図面と共にいとまを与えた件にある。
鴈治郎が初代鴈治郎以来演じてきた若狭之助。亀蔵が本蔵。2人は主従の絆を熱演した。
梅枝の三千歳姫、橘太郎の井浪。
後半の「梅雨小袖昔八丈」は五代目菊五郎以来、代々演じている髪結新三を七代目の息子・菊之助が挑む。清新な役者だけに、まだ悪党は難しいかなと思っていたが、序幕「永代橋」で、だました忠七に言いがかりをつける最初の台詞からしっかり悪を感じさせる。この後、勢いに乗り、老侠客・弥太五郎源七を撃退する件、老獪な家主・長兵衛にやりこめられる件まで一気に見せた。軽快な小悪党。継承成功である。
亀蔵が長兵衛。「増補忠臣蔵」の忠義な本蔵から一転して、悪党の上前をはねる因業家主。両方とも好演である。橘太郎の女房お角も前演目の敵役から一転して欲張り婆さん。こちらも結構。
團蔵の源七は勢いを失った侠客の悲哀を感じさせる。萬太郎の勝奴もいい。萬次郎の白子屋後家お常。梅枝の手代忠七。梅丸の白子屋お熊、
7日所見。

2018年3月11日 (日)

三月大歌舞伎評
昼の部は「国性爺合戦」から。獅子ケ城の「楼門」「甘輝館」「紅流し」「元の甘輝館」。
愛之助の和藤内。花道の出から勢いがあり飛び六方もきまる。明国再興を志す日中混血青年の気迫がある。しかし、声に荒事らしい強さがほしい。
芝翫の甘輝。将軍としての大きさや妻・錦祥女の異母弟の和藤内に助力を頼まれる苦悩が見られ、まずまずの出来。扇雀の錦祥女。このところ充実した演技を見せているが、義理に苦しめられる今回の役はいささか難しいようだ。
そんな中、ベテランの東蔵が和藤内の父・老一官。秀太郎が妻・渚で味わい深い演技を見せた。特に義理を通すために死を選ぶ渚に強さがあり、光る。
次が先代四世雀右衛門七回忌追善「男女道成寺」
当代雀右衛門の白拍子花子。襲名以来、役者ぶりを大きくしているが、ここでも「恋の「手習い」のクゴキを中心に「鐘入」まで伸びやかに見せる。
松緑の狂言師左近。本曲の軽妙な部分を際立たせた。友右衛門が冒頭で追善のあいさつ。
「芝浜革財布」は芝翫の魚屋政五郎、孝太郎の女房おたつ。初役の2人で心温まる人情噺を作り上げた。芝翫は持ち味の庶民性を生かし、世話物に強いところを証明した。いずれ、舞台に江戸の風を吹かせるようになるだろう。孝太郎は酔いからさめた亭主を「大金拾ったのは夢だ」とだます件に情がある。下世話になりすぎないのも好感が持てる。
夜の部最初の「於染久松色読販」は悪婆、土手のお六が活躍する「小梅莨屋」「瓦町油屋」。
玉三郎のお六に仁左衛門の鬼門の喜兵衛。美男美女コンビで人気を集めた昭和の孝玉ブームを思い出す。
その仁左衛門と玉三郎が次の「神田祭」でいなせな鳶頭、あでやかな芸者で再登場。前演目で社会の底辺にうごめく悪を演じた2人が華やかに踊る。仁左衛門は爽やか、玉三郎は愛嬌たっぶり。ご両人!と声を掛けたくなるほどいいコンビだ。
最後は新派名作「滝の白糸」の玉三郎演出による歌舞伎化。壱太郎の水芸の太夫・白糸、松也の村越欣弥がメリハリの効いた演出に乗り、瑞々しい演技で純愛、悲恋、悲劇を描き上げている。元来芸達者な若手だが、ワンランク上がった、今月一番の収穫である。
白糸が村越に恋心を抱き、学費支援を約束するに至る二幕「卯辰橋」が優れている。壱太郎は一目ぼれを違和感なく見せ、妻になりたい気持ちを口に出せない切なさが心に響く。終始きっぱりした物腰から元士族の娘としての矜持を感じさせる。
松也は前半、苦学の馬方で野性的な面も見せるが、後半では落ち着きのある検事代理として登場する。恩を受けた白糸に、殺人を自白するように諭す法廷の件は説得力とともに情もあり、感動させる。
歌六の春平、彦三郎の南京寅吉も好演。
6日所見。

2018年2月17日 (土)

焦点・六代目竹本織太夫襲名に想う

八代目竹本綱太夫五十回忌追善と六代目竹本織太夫襲名公演が、東京・国立劇場小劇場で開かれている。文楽で五十回忌追善公演は珍しい。
八代目綱太夫は人間国宝にして日本芸術院会員。昭和の文楽を代表する太夫の1人である。新・織太夫は祖父が二代目鶴澤道八、大伯父が四代目鶴澤清六、伯父に鶴澤清治という文楽三味線方の家に生まれながら、8歳で八代目綱太夫の子、豊竹咲大夫に入門した異色の経歴の持ち主。四十歳を超えて間もない気鋭の人気太夫だ。
襲名披露狂言は第二部で、「口上」の次に上演された「摂州合邦辻・合邦住家の段」。14日に拝見したが、師匠・咲太夫の切り場の後を全身全霊打ち込んで語り、合邦・玉手御前父娘の悲劇を盛り上げた。
文楽の太夫方の現状を考えると、実力者と認められた切り場語りは咲太夫ただひとり。現役の人間国宝もいない。いわば冬の時代。この「合邦」を見ても、玉手御前の人形を遣う桐竹勘十郎や相三味線の鶴澤燕三が目立つのである。織大夫には切り場語りを目指しがんばってほしい。
ところで、織太夫の魅力は迫力ある美声にあるのだが、最近は引退した竹本住太夫のような、つぶした渋い喉にお目にかからない。そういう声は歌舞伎で義太夫を語る竹本でも竹本葵太夫ぐらいしかいない。女流義太夫では竹本駒之助だけか。腹に響く低音より美しいやや高い声が増えている。
この傾向は、地唄や浪曲、さらには歌謡曲の世界にまで広がっているように思える。
なぜだろう。渋い声にするには年季がいるからか。資質の問題か。美声に傾くのは女性客に好まれるからか。理由は分からないが、変わりつつあるのは間違いないようである。いささか寂しい気がする。=敬称略(伝統文化新聞にも掲載します)

2018年2月 6日 (火)

二月大歌舞伎評

一月に引き続き高麗屋三代襲名披露公演。
昼の部は「春駒祝高麗」から。曽我兄弟が春駒売りとなって仇・工藤と対面する。
梅玉の工藤祐経、優しさ勝る敵役だが重みはあり、襲名にふさわしい。芝翫の荒々しい曽我五郎、錦之助の柔らかな曽我十郎。少々とうの立った兄弟だが、若者にない押しがある。又五郎の小林朝比奈は三の線が少なく、五郎の如き勢いを見せるのはいかがなものか。
続く「一條大蔵譚」は幸四郎の大蔵卿。よく研究している。しかし、声が弱いため作り阿呆と正気を鮮やかに演じ分けられていない。今後の課題だろう。
時蔵の常盤御前、安定感がある。松緑の吉岡鬼次郎、孝太郎のお京は忠義の若夫婦。歌六の八剣勘解由、秀太郎の鳴瀬で、このふたつの役が大きくなった。
「暫」は海老蔵の鎌倉権五郎。台詞はあまりうまいとは言えないが、神がかり的なこのような役は余人をもって代えがたい何かがある。鴈治郎の鹿島入道震斎は達者におかしみを出した。孝太郎の那須九朗妹照葉、左團次の清原武衡。
「井伊大老」は吉右衛門の井伊大老。すでに定評のある当たり役を、余裕たっぷりに演じる。雀右衛門の大老側室・お静の方は大老への情が深く結構だが、欲を言えば日陰の身の哀愁が欲しい。高麗蔵がメリハリの効いた大老正室・昌子の方、歌六が味のある仙英禅師で好演。梅玉の冷徹な長野主膳。
夜の部は「熊谷陣屋」は幸四郎の熊谷直実。時代物の大役に敢然と挑戦し、その熱意は伝わってくるが、若さを露呈したところは惜しい。陣屋まで押しかけてきた妻の相模に対し、「やい、女」と叱りつけるのはまだ違和感がある。古の夫婦の世界に入れていないからではないか。幕外の引っ込みが、いささか落ち着かない。たっぷり見せて欲しいところだ。
菊五郎の源義経が広い愛で舞台を包んだ。魁春の熊谷妻相模に子を失った母の哀しみがあふれる。、雀右衛門の藤の方、芝翫の梶原景高、鴈治郎の堤軍次、左團次の弥陀六。
「寿三代歌舞伎芝居賑」。江戸の芝居小屋の前で藤十郎、菊五郎、仁左衛門、玉三郎らが白鸚、幸四郎、染五郎を出迎える「芝居前」と襲名の三人による「口上」をドッキング。両花道を使ったツラネもあり面白い趣向。幸四郎は歌舞伎の職人になると熱っぽくあいさつした。期待する。
最後は「仮名手本忠臣蔵・七段目」。白鸚の大星由良助で二か月におよぶ襲名興行を締めくくる。敵討ちに凝り固まらず、優しく人間味豊かな由良助である。現代の由良助像であろう。、孫の染五郎が力弥を神妙に勤める。30年後に幸四郎になるのか、そのまた30年後には白鸚になるのかと想像するだけでも楽しくなる。
平右衛門・お軽の兄妹は奇数日が仁左衛門・玉三郎、偶数日が海老蔵・菊之助のダブルキャスト。偶数日を見た。海老蔵はおおらかに足軽を演じる。軽輩もの悲哀に乏しいが妹思いのいい兄である。菊之助は瑞々しいお軽。いいコンビである。
錦吾が斧九太夫を好演。
2日所見。

2018年1月29日 (月)

焦点・盛会の手話狂言初春の会

焦点第37回手話狂言初春の会が1月27、28日の両日、東京・千駄ヶ谷の国立能楽堂で開かれた。28日に拝見した。
手話狂言とはろう者の狂言師が手話で演じる狂言。アメリカのろう者演劇に魅せられた女優の黒柳徹子が、自ら理事長を勤めるトット基金の日本ろう者劇団で取り組んでいる。
毎年恒例の初春の会も今回が37回目なので歴史は古い。
この日、冒頭で黒柳理事長が結婚と離婚を手話で説明して巧みに笑いを取りながらあいさつ。続いて3演目が上演された。
最初の「萩大名」は権力者のシテ・大名(五十嵐由美子)をからかう。アド・太郎冠者(小泉文子)。「膏薬煉」はシテ・上方の膏薬煉(數見陽子)とアド・鎌倉の膏薬煉(鈴まみ)が自慢し合う。最後の「釣針」は歌舞伎「釣女」の元になった演目で、妻を釣り上げようとしたシテ・太郎冠者(江副悟史)が痛い目に合う。アド・主人(砂田アトム)、乙・御夢想の妻(廣川麻子)、立頭・妻(田家佳子)、立衆・腰元(今井彰人、安岡杏奈、中江央)。
手話を理解できない筆者は監事室で手話に合わせて発する三宅狂言会の皆さんの声に頼るしかないのだが、狂言師のキビキビした動きは素晴らしく、客席は盛り上がっている。とくに「釣針」は大受けだった。
出演者の努力の大きさと共に伝統芸能の底力を感じざるをえない公演である。
ところで、この劇団には20人ほどが参加、海外公演も行っているのだが、夢は2年後の東京オリンピック・パラリンピックに合わせて手話狂言を上演することらしい。
その際、2015年6月のローマ・パリ巡回公演で使い、好評だった国際手話も取り入れたいそうだ。国際手話は、まだ言葉こそ少ないが世界共通語である。是非、実現してもらいたいものだ。=敬称略(伝統文化新聞にも掲載します)

2018年1月15日 (月)

国立劇場初春歌舞伎評

近松徳三、奈河篤助作「姫競双葉絵草紙」を菊五郎監修のもと、国立劇場文芸研究会が補綴した「世界花小栗判官」の通し上演。
乗馬の達人、小栗判官と照手姫が織りなす放浪の恋に天下をねらう盗賊、風間八郎を絡めた娯楽活劇である。
座頭の菊五郎が風間八郎で大盗賊の貫禄を示す。
菊之助が主人公の小栗判官。颯爽とした青年武者である。
尾上右近が可憐な照手姫。
松緑は忠義の家臣浪七。
時蔵が風間八郎と対峙する足利家執権の細川政元、そして万屋後家お槙の二役。品格ある執権と情のある母を演じ分ける。
梅枝が判官に一目ぼれしたお槙の娘お駒。團蔵の横山大膳。
いずれも好演している。曲馬乗りや風間と政元の対決、浪七の壮烈な立ち回り、お駒の祟りで足なえとなった判官と照手姫の道行など見どころも多い。それにしては盛り上がりに欠ける。スリリングな展開が不足しているためではないか。
見応えがあったのは三幕目「万屋奥崎喜」。お駒が判官と祝言出来ぬと知って恋の妄執に狂う件である。旧主の照手姫とわが娘お駒の間で苦悩するお槙と恋に一途なお駒が凄絶な葛藤を見せた。(9日所見)

2018年1月12日 (金)

新橋演舞場・初春歌舞伎評

海老蔵と病気復帰の獅童がそれぞれ宙乗りや早替わりを見せるなど、娯楽に徹したスペクタクルな舞台を作った。従来の昼の部、夜の部の名称をAプロ、Bプロと改めた。そこからも革新への意欲がうかがえる。
Aプロは鶴屋南北の「天竺徳兵衛韓噺」から。獅童がガマの妖術を使い天下を狙う大悪人、天竺徳兵衛。座頭に化けて木琴を弾いて笑いを取ったかと思えば、早替わりで偽勅使となって、「石川五右衛門」よろしく葛籠抜けの宙乗り。客席をあっと驚かせる。病気復帰後の東京大劇場初御目見え。元気なところを強調しようとしているのだろうか、大張り切り。以前より声も大きい。それがワイルドな持ち味をさらに際立たせている。めでたい復帰である。
右團次が明国の遺臣で徳兵衛の父、吉岡宗観と将軍上梓、細川修理之助政元の二役。時代の台詞をしっかり語り、この座組では最も歌舞伎らしさを感じさせる。海老蔵が最後に足利義政で登場、きれいに治める。
その海老蔵は続く初春「口上」で「にらみ」を披露した。大舞台で一人片肌脱ぎになりにらむ。客席は圧倒される。お家芸とはいえ、こういうことが出来るのは、この人ぐらいであろう。
「鎌倉八幡宮静の法楽舞」は新歌舞伎十八番の復活だが、松岡亮が新たな着想で台本を書いたという。
荒れ寺の妖怪を忍性上人が鎮めにくる話で、海老蔵が「黒塚」を想起させる老女や静御前、源義経、白蔵主、油坊主、三途川の船頭、化生の七役を早替わりで見せ、楽しませる。右團次も忍性上人を好演。ただ、珍しい河東節、常磐津、清元、竹本、長唄の豪華な掛け合いの方が心に残った。
Bプロは宮沢章夫脚本、宮本亜門演出の新作歌舞伎「日本むかし話」の通し。
お婆さんが子供に昔話を聞かせる形で幕が開き、「かぐや姫」「浦島太郎」「桃太郎」「一寸法師」「花咲爺さん」を現代の視点で皮肉を込めながら描く。鬼が人間にいじめられているなど、どこかで読んだような話もあるが、望みがかなう「鬼石」をうまく使い、楽しめる民話劇にまとまっている。
ここで感心したのは主役海老蔵である。赤鬼、犬のシロで笑いの渦を作った。照れがなく、何かふっ切れた境地に到達した感じがする。無論、かぐや姫の恋人、重信ノ尊で二枚目の顔も見せる。
獅童が得松爺で悪役ぶりを発揮、児太郎が重信ノ尊との交に苦しむかぐや姫を好演した。海老蔵の娘堀越麗禾が幼少のかぐや姫で登場、喝采を浴びた。
この演目でも右團次が浦島太郎、青鬼、正造爺などで活躍。今月の殊勲賞。
(5日所見)

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