2017年11月12日 (日)

国立劇場十一月歌舞伎評

<見>新歌舞伎の二本立て。
一本目は山本有三の「坂崎出羽守」。孫娘・千姫を救出すれば嫁にやるとの徳川家康の言葉を信じ、炎上する大坂城に飛び込んだ坂崎出羽守の悲劇をつづる。
松緑が祖父・二代目松緑の演出を踏襲して出羽守に挑戦した。台詞の語尾を下げる癖が気になるものの、火傷で醜くなったことや女性に対して不器用なことなどの劣等感に苦しむ様を的確に演じている。暗い役が得意のようである。
梅玉の家康が興味深い。狸親父のイメージからほど遠いサラリーマン社長の如き家康だ。これが出羽守の激高、乱心を際立たせている。
左團次の重みのある金地院祟伝、梅枝の気の強い千姫、亀蔵の要領のいい本多平八郎、橘太郎の忠義な三宅惣兵衛ら周囲も固まり好舞台である。
もう一本は長谷川伸の「沓掛時次郎」。渡世人・沓掛時次郎は一宿一飯の恩義から殺めた三蔵の女房で身重のおきぬとその倅・太郎吉の面倒を看る人情股旅物。
梅玉が時次郎。やくざ者には不向きな役者で、さらりと爽やかに演じている。迫力不足だが。義理人情やおきぬへのほのかな想いが伝わる。
その女房おきぬが魁春。薄幸の女性はこの役者の得意技。おきぬが出産で死んだことを明らかにする場面、魁春は登場しないのに悲しみを漂わせる。
松緑の男気のある三蔵、息子の左近がいじらしい太郎吉で好演。
楽善が八丁徳で親分の貫禄を示した。橘太郎が安兵衛。歌女之丞が安兵衛女房・おろくで安宿の女将の情味を出した。
7日所見。
――26日まで国立劇場大劇場で上演。

2017年11月10日 (金)

こまつ座「きらめく星座」評

<見>井上ひさし昭和庶民伝三部作のうち昭和60年に初演された第一作。栗山民也演出。
第二次世界大戦開戦直前、浅草のレコード店オデオン堂を舞台に、戦争に巻き込まれていく庶民の姿を当時の流行歌をふんだんに使いながら描く。
3年前の上演と同じキャストのため全員よく役をこなしているが、とりわけ3人の好演がドラマを盛り上げた。
まず、木場勝己。東北で教職を追われた広告マン竹田慶介を演じている。独特の落ち着いた台詞術で、軍国化の時世に流されないリベラル派の立場をうまく表現している。
次ぎが山西惇。竹田に対峙するオデオン堂の婿で傷痍軍人の源次郎を好演している。単純思考で軍部の代弁をするのだが、時に三の線を織り込みユーモラス。
最後はオデオン堂の後妻・ふじ役の秋山菜津子。好戦・反戦を超越した女性ならではの逞しさを感じさせる。作品に込められた希望を明るく体現している。
内外の情勢が何かきな臭い昨今だけに、井上の反戦の叫びがひときわ高く響く。
共演は久保酎吉、田代万里生、深谷美歩ら。
4日所見。
――23日まで紀伊国屋サザンシアターで上演。

2017年11月 9日 (木)

顔見世大歌舞伎評

<見>今月の特徴は、藤十郎、菊五郎、幸四郎、吉右衛門、仁左衛門の大看板5人がそれぞれ若々しい役を勤めていることだ。
順を追ってその出演演目を見る。
昼の部の二番目「奥州安達原」の「環宮明御殿」。吉右衛門の安倍貞任。ニセの桂中納言では公家の気品を漂わせ、見顕してからは武将の大きさを示す。しかし、この演目は前半の雀右衛門が光る。親の意に反し敵方の息子・貞任と結婚したため勘当され、幼い娘を連れ放浪する盲目の芸人・袖萩の哀しみを切々と伝える。陰のある女性がうまい。東蔵が袖萩の母・浜夕。勘当はしたものの、娘への愛は断ち切れない母の情が舞台にあふれる。愁嘆場はこの人間国宝のためにあるようなもの。歌六が夫・直方。このところ様々な老けを手がけているが、東蔵の前ではまだ影は薄い。浄瑠璃は一級品の葵太夫。
次ぎが「雪暮夜入谷畦道」で菊五郎の片岡直次郎、直侍。「そば屋」で、粋な御家人崩れrの雰囲気が甘く漂う。余人をもって代えがたい当たり役だが、いささか貫禄が付きすぎでは。時蔵が三千歳で真っすぐな情を見せる。東蔵はここでは按摩の丈賀を器用に演じる。團蔵の暗闇の丑松。
夜の部に入ると「仮名手本忠臣蔵」の「五・六段目」で仁左衛門の勘平。繊細で瑞々しい色気がいまだに十分香る。線の細さをうまく出し、「鶍の嘴と食い違う」哀れを際立たせる。大看板の中では今月一番いい。ただ上方の人だけに上方の型でも演じてほしい。
秀太郎が一文字屋お才でさすがの存在感。孝太郎のおかる、吉弥のおかや。
「恋飛脚大和往来」の「新口村」は藤十郎の忠兵衛。柔らかさが切なさを呼ぶ。扇雀の梅川が舅に対する細かい情で見せる。歌六が孫右衛門。ここでも老けで健闘しているが、十三代目仁左衛門の枯れた父性愛の優しさが目に残っている者にとっては、まだまだである。
最後は「元禄忠臣蔵」の「大石最後の一日」。幸四郎が重厚かつ理性的な内蔵助。そして、初一念を通す武士道より、偽りを誠の愛に変えさせる、情に優れた内蔵助である。
染五郎が恋をじっと心に納めた磯貝十郎左衛門。児太郎が乙女田娘・おみのを好演している。磯貝の愛を命がけで確かめる姿に感動させられる。彌十郎が堀内伝右衛門。乙女田家の苦境を語る件は聴かせる。ほかに仁左衛門が颯爽とした目付役荒木十左衛門、金太郎が品のある細川内記。役者が揃い今月一番充実した舞台。
ほかに、昼の幕開き「鯉つかみ」。染五郎が志賀之助と鯉の精の二役。本水の大立ち回りで楽しませる。
2日所見。
――25日まで歌舞伎座で上演。

2017年10月19日 (木)

東宝ミュージカル「レディ・ベス」評

<見>東宝が「エリザベート」のコンビ、ミヒャエル・クンツェに脚本・歌詞を、シルヴェスター・リーヴァイに音楽を委嘱、小池修一郎の演出で3年前に初演した作品の再演。
英国女王エリザベス1世(=ベス)が異母姉で前女王のメアリー1世の迫害に耐え25歳で王位に就くまでの、恋と苦難の過程を描く。親しみやすい曲に乗り、初演から大型ミュージカルの風格を漂わせていたが、再演で作品の構図が鮮明に見えてきた。
ベスが家庭教師アスカムの父性愛、養育係アシュリーの母性愛に支えられて試練に耐え、女王として国民のために生きていく決意をするという構図である。
ベスはダブルキャストのうち花總まりを見た。初演より落ち着きが増し、演技に迷いが感じられない。恋か王位かの選択で悩む件は見せ場になり、王位を選んだ後が爽やかである。
今回は山口祐一郎のアスカム。終始抑制を効かせ、作品全体を優しく包んだ。涼風真世のアシュリーが歌唱で元宝塚トップスターの貫禄を示しながら、脇に徹していた。
山崎育三郎が情熱的な恋人ロビン、吉沢梨絵が苛酷なメアリーで好演。
13日所見。
――11月18日まで帝劇で上演。

2017年10月18日 (水)

焦点・猿之助の休演とアンダースタディ

市川猿之助が10月9日、東京・新橋演舞場で主演中のスーパー歌舞伎ⅱ「ワンピース」で負傷、休演のやむなきに至った。舞台も休演かと思いきや、翌10日、代役により続演。その舞台を拝見した。
猿之助が演じるはずの、夢多き海賊少年ルフィと女帝ハンコックの代役を勤めたのは尾上右近。名優六代目尾上菊五郎の曾孫で、清元節家元延寿太夫の次男である。子役で活躍の後、女形で頭角を現している20代の若手だ。猿之助の知名度、持ち味の穴埋めは出来ないが、台詞もしっかり入り、冒険活劇をスペクタクルに盛り上げた。
これだけ読むと、たった一日でと驚く人もあろうが、パンフレットを見れば直ぐに謎は解ける。右近、坂東新悟、中村隼人を中心にした若手公演が「麦わらの挑戦」としてこの公演に組み込まれているのだ。それが猿之助の怪我でスポットライトを浴びることになったわけだ。この事態、猿之助には気の毒だが、「麦わら」組にも、観客にも、そして経営の松竹にも不幸中の幸いであったと思う。
海外の演劇界では主要な出演者の代役を予め決め、十分稽古をして不測の事態に備えるアンダ―スタディ制度があると聞く。今回の例は若手育成が狙いだったのであろうが、アンダースタディ効果があったと思えなくもない。
猿之助一門には先代から若手公演の前例があった。先代猿之助(現猿翁)のスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」で市川右近(現右團次)が主役を勤める日もあった。
演出より役者本位の日本の演劇界にあって、アンダースタディ制度は難しいかも知れないが、若手公演の併設は、若手育成、主役の休養、事故対策としても有効ではないかと思う。そして何よりも猿之助の一日も早い回復と復帰を願う。=敬称略

2017年10月17日 (火)

能・白翔会評

<見>「翁」は坂井音雅の翁。折り目正しく楷書の演技。坂井音晴の神妙なる千歳。山本則重の三番三。揉みの段、鈴の段に力強さがあり、勢いを感じさせた。山本凛太郎の面箱。
「融―思立之出。酌之舞」は坂井音重の尉、融大臣。後ジテは風雅を愛し楽しん昔を素直に思い出しつつ謡い、舞い、大臣の大きさを示した。福王和幸の旅僧、山本東次郎の清水寺門前ノ者。
8日所見。
――国立能楽堂で上演。

2017年10月12日 (木)

東宝「土佐堀川」評

<見>副題に「近代ニッポンー女性を花咲かせた女 広岡浅子の生涯」が示すように、明治期に女性財界人として、また女性の地位向上に貢献した女傑の物語。近年、NHKテレビでもドラマ化され、その中のギャグ、ビックリポンも使われている。テレビも軽い喜劇だったが、それを押し進め漫画的喜劇になっている。テレビと異なるのは、舞台らしくしっかり、泣かせ、笑わせていることだ。特定企業ど大学の名が出てくるのは気になる。古川智映子原作、小池倫代脚本、田村孝裕演出。
高畑淳子が京の豪商・三井家から大坂の豪商・加島屋に嫁いだ浅子。振袖を振り回して闊歩する出だしからワイルドぶりを発揮し、疲弊した嫁ぎ先を再建、石炭事業の成功、女子大学設立運動と強い台詞でパンチをきかせながら最後まで一気に見せる。はまり役である。
赤井英和が浅子の夫、信五郎。テレビの和事風の人物とは異なり、しっかりした立役の風情。作品世界に合ったのか、台詞がなめらかである。
田山涼成が信五郎の弟・正秋で、狂言回しに芸達者ぶりを見せた。南野陽子が浅子を支える小藤を控えめに演じ、にぎやかな舞台に静かなアクセントを付けた。葛山信吾が大阪財界の大物・五代友厚と教育者・成瀬仁蔵の二役。
5日所見。
――28日までシアタークリエ。

<見>副題に「近代ニッポンー女性を花咲かせた女 広岡浅子の生涯」が示すように、明治期に女性財界人として、また女性の地位向上に貢献した女傑の物語。近年、NHKテレビでもドラマ化され、その中のギャグ、ビックリポンも使われている。テレビも軽い喜劇だったが、それを押し進め漫画的喜劇になっている。テレビと異なるのは、舞台らしくしっかり、泣かせ、笑わせていることだ。特定企業ど大学の名が出てくるのは気になる。古川智映子原作、小池倫代脚本、田村孝裕演出。
高畑淳子が京の豪商・三井家から大坂の豪商・加島屋に嫁いだ浅子。振袖を振り回して闊歩する出だしからワイルドぶりを発揮し、疲弊した嫁ぎ先を再建、石炭事業の成功、女子大学設立運動と強い台詞でパンチをきかせながら最後まで一気に見せる。はまり役である。
赤井英和が浅子の夫、信五郎。テレビの和事風の人物とは異なり、しっかりした立役の風情。作品世界に合ったのか、台詞がなめらかである。
田山涼成が信五郎の弟・正秋で、狂言回しに芸達者ぶりを見せた。南野陽子が浅子を支える小藤を控えめに演じ、にぎやかな舞台に静かなアクセントを付けた。葛山信吾が大阪財界の大物・五代友厚と教育者・成瀬仁蔵の二役。
5日所見。
――28日までシアタークリエ。

2017年10月10日 (火)

芸術祭十月大歌舞伎評

<見>昼の部は世界最長と言われるインドの叙事詩「マハーバーラタ」を歌舞伎化した新作「極付印度伝・マハーバーラタ戦記」の通し。破滅的な世界戦争を慈愛で止めようとする迦楼奈と武力で制止しようとする阿龍樹雷王子との対立を軸に青木豪が脚本を書き、宮城聰が演出した。戦の虚しさを説く物語は分かりやすく、スペクタクルで早い展開。「仮名手本忠臣蔵」の「大序」や「三番叟」を思わせる件もある。竹本、長唄やツケなど歌舞伎の要素もふんだんに盛り込まれ、楽しめる舞台だ。
菊之助がシヴァ神と二役で迦楼奈を勤めた。逞しさと苦悩を併せ持つ戦士。近年立役が目立つが、今回初めて骨太の演技を見せた。今月の収穫である。
次ぎに評価するのは七之助の鶴妖朶王女。悪女でありながら純粋な恋に泣く。矢継ぎ早に展開する中でじっくり人物を見せた。菊五郎が仙人久理修那で全体をまとめ、貫禄を示した。
時蔵の汲手姫。鴈治郎の帝釈天。松也の阿龍樹雷王子・梵天。萬次郎の羅陀、團蔵の弗機王。楽善の大黒天。左團次の太陽神。
夜の部は「沓手鳥孤城落月」から。落城寸前の大坂城の淀の方を描いた坪内逍遥の名作。石川耕士演出。今回は原作に戻し裸武者をカット、淀の方と秀頼母子に絞り込んだ。
玉三郎が淀の方に初挑戦。この役を当たり役にしていた歌右衛門のように大芝居にせず、落城の悲運による錯乱、息子秀頼への情愛をリアルに描いた。舞台も暗くし新劇調。淀の方の気位の高さは出ている。
七之助が神妙に秀頼を勤めた。松也の大野修理亮。彦三郎の氏家内膳。萬次郎の正栄尼。
次の「漢人韓文手管始」は唐使饗応を命じられた家の家老十木伝七が恋の遺恨でひどい仕打ちをする大通辞・幸才典蔵を殺める。
鴈治郎は初代以来演じている伝七に初挑戦。和事の柔らか味と芯の通った男の強さも併せ持つぴんとこなをうまく演じている。二枚目ぶりより三枚目の線が強く出ているのはこの人らしい。これに対し芝翫の典蔵も立敵の大きさがあり、面白い芝居を作った。
七之助の傾城高尾。松也の奴光平。
最後の長唄「秋の色種」は玉三郎が梅枝、児太郎を従え、深まりゆく秋の風情をしっとり踊る。
2日所見。
――25日まで歌舞伎座で上演。

2017年9月28日 (木)

焦点・劇団若獅子結成三十周年記念公演

赤城の山も今夜限りー。力強く、また切ない笠原章の名調子が観客の心をしかとつかんだ。9月27日に東京・新橋演舞場で開かれた劇団若獅子結成三十周年記念公演での、やくざの義侠心を描いた傑作「国定忠治」の名台詞である。
大正6年に澤田正二郎が創立、島田正吾、辰巳柳太郎の二枚看板で発展した劇団新国劇。男の義理人情、人間の誠を名台詞で歌い上げ、男性客を引きつけたが、女優芝居やテレビドラマ台頭の流れに抗えず、昭和62年に幕を閉じた。創始者澤田の遺志を継ぐべく、笠原ら新国劇有志で結成したのが若獅子である。
筆者は新国劇解散について当時、読売新聞にいくつもの記事を書いた。「七十年続いた“男の芝居”も女性観客主流の時代には勝てなかった」と記し、「後継者がいない」という島田の解散理由も載せた。その中で永山武臣(当時松竹社長)は、「解散は残念だが、新国劇の精神はきっとだれかが受け継いでいくと思う」と語っている。それが笠原たちであったわけだ。
今公演の幕が開く前にあいさつに立ったベテラン女優の南條瑞江は「ようやく30年を迎えた」と喜んだ。しかし、厳しい道程であったことをうかがわせる言葉だった。そして代表の笠原はゲストで「月形半平太」に出演した市川猿之助や「国定忠治」に出演した伊吹吾郎らとカーテンコールに並び、「これからも頑張ります」と今後の決意を述べた。
新国劇を解散に追い込んだ女優芝居やテレビドラマも、時移り、昔日の勢いはない。芝居にとって難しい時代に若獅子は如何に生き残るか。男の芝居の意地を見せてほしい。=敬称略

2017年9月27日 (水)

松竹「アマデウス」評

<見>老宮廷楽長サリエーリは、かつて大作曲家モーツァルトを殺したと告白する。その回想の中で、天才モーツァルトへの嫉妬、自分には彼が天才であることを理解できる才能しか与えてくれなかった神への怒りをぶちまけ、モーツァルトを破滅に追い込む顛末を語る。ピーター・シェーファーの名作を主演の松本幸四郎が演出。
幸四郎は昭和57年からサリエーリを演じ、今公演中に通算出演数450回を超す。当たり役のひとつである。サリエーリの年齢73歳を超えた幸四郎だが、20分の休憩をはさんで3時間近い舞台に出ずっぱり。歌舞伎に通じる力強い台詞術で観客を圧倒する。その気力、体力には驚かされる。サリエーリの狡猾、傲慢、卑屈、即ち人間の持つ負の部分を巧みに紡ぎあげる。
桐山照史のモーツァルトは歴代の中で最も子供っぽさを感じさせる。それだけ稚気に満ち、役に合う。サリエーリに押し負けてはいない。これは幸四郎の力量のせいもあろう。
モーツァルトの妻コンスタンツェは大和田美帆。まずまずの出来。
26日所見。
――10月9日までサンシャイン劇場で上演。

«テレビ朝日「謎の変奏曲」評

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