2017年10月19日 (木)

東宝ミュージカル「レディ・ベス」評

<見>東宝が「エリザベート」のコンビ、ミヒャエル・クンツェに脚本・歌詞を、シルヴェスター・リーヴァイに音楽を委嘱、小池修一郎の演出で3年前に初演した作品の再演。
英国女王エリザベス1世(=ベス)が異母姉で前女王のメアリー1世の迫害に耐え25歳で王位に就くまでの、恋と苦難の過程を描く。親しみやすい曲に乗り、初演から大型ミュージカルの風格を漂わせていたが、再演で作品の構図が鮮明に見えてきた。
ベスが家庭教師アスカムの父性愛、養育係アシュリーの母性愛に支えられて試練に耐え、女王として国民のために生きていく決意をするという構図である。
ベスはダブルキャストのうち花總まりを見た。初演より落ち着きが増し、演技に迷いが感じられない。恋か王位かの選択で悩む件は見せ場になり、王位を選んだ後が爽やかである。
今回は山口祐一郎のアスカム。終始抑制を効かせ、作品全体を優しく包んだ。涼風真世のアシュリーが歌唱で元宝塚トップスターの貫禄を示しながら、脇に徹していた。
山崎育三郎が情熱的な恋人ロビン、吉沢梨絵が苛酷なメアリーで好演。
13日所見。
――11月18日まで帝劇で上演。

2017年10月18日 (水)

焦点・猿之助の休演とアンダースタディ

市川猿之助が10月9日、東京・新橋演舞場で主演中のスーパー歌舞伎ⅱ「ワンピース」で負傷、休演のやむなきに至った。舞台も休演かと思いきや、翌10日、代役により続演。その舞台を拝見した。
猿之助が演じるはずの、夢多き海賊少年ルフィと女帝ハンコックの代役を勤めたのは尾上右近。名優六代目尾上菊五郎の曾孫で、清元節家元延寿太夫の次男である。子役で活躍の後、女形で頭角を現している20代の若手だ。猿之助の知名度、持ち味の穴埋めは出来ないが、台詞もしっかり入り、冒険活劇をスペクタクルに盛り上げた。
これだけ読むと、たった一日でと驚く人もあろうが、パンフレットを見れば直ぐに謎は解ける。右近、坂東新悟、中村隼人を中心にした若手公演が「麦わらの挑戦」としてこの公演に組み込まれているのだ。それが猿之助の怪我でスポットライトを浴びることになったわけだ。この事態、猿之助には気の毒だが、「麦わら」組にも、観客にも、そして経営の松竹にも不幸中の幸いであったと思う。
海外の演劇界では主要な出演者の代役を予め決め、十分稽古をして不測の事態に備えるアンダ―スタディ制度があると聞く。今回の例は若手育成が狙いだったのであろうが、アンダースタディ効果があったと思えなくもない。
猿之助一門には先代から若手公演の前例があった。先代猿之助(現猿翁)のスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」で市川右近(現右團次)が主役を勤める日もあった。
演出より役者本位の日本の演劇界にあって、アンダースタディ制度は難しいかも知れないが、若手公演の併設は、若手育成、主役の休養、事故対策としても有効ではないかと思う。そして何よりも猿之助の一日も早い回復と復帰を願う。=敬称略

2017年10月17日 (火)

能・白翔会評

<見>「翁」は坂井音雅の翁。折り目正しく楷書の演技。坂井音晴の神妙なる千歳。山本則重の三番三。揉みの段、鈴の段に力強さがあり、勢いを感じさせた。山本凛太郎の面箱。
「融―思立之出。酌之舞」は坂井音重の尉、融大臣。後ジテは風雅を愛し楽しん昔を素直に思い出しつつ謡い、舞い、大臣の大きさを示した。福王和幸の旅僧、山本東次郎の清水寺門前ノ者。
8日所見。
――国立能楽堂で上演。

2017年10月12日 (木)

東宝「土佐堀川」評

<見>副題に「近代ニッポンー女性を花咲かせた女 広岡浅子の生涯」が示すように、明治期に女性財界人として、また女性の地位向上に貢献した女傑の物語。近年、NHKテレビでもドラマ化され、その中のギャグ、ビックリポンも使われている。テレビも軽い喜劇だったが、それを押し進め漫画的喜劇になっている。テレビと異なるのは、舞台らしくしっかり、泣かせ、笑わせていることだ。特定企業ど大学の名が出てくるのは気になる。古川智映子原作、小池倫代脚本、田村孝裕演出。
高畑淳子が京の豪商・三井家から大坂の豪商・加島屋に嫁いだ浅子。振袖を振り回して闊歩する出だしからワイルドぶりを発揮し、疲弊した嫁ぎ先を再建、石炭事業の成功、女子大学設立運動と強い台詞でパンチをきかせながら最後まで一気に見せる。はまり役である。
赤井英和が浅子の夫、信五郎。テレビの和事風の人物とは異なり、しっかりした立役の風情。作品世界に合ったのか、台詞がなめらかである。
田山涼成が信五郎の弟・正秋で、狂言回しに芸達者ぶりを見せた。南野陽子が浅子を支える小藤を控えめに演じ、にぎやかな舞台に静かなアクセントを付けた。葛山信吾が大阪財界の大物・五代友厚と教育者・成瀬仁蔵の二役。
5日所見。
――28日までシアタークリエ。

<見>副題に「近代ニッポンー女性を花咲かせた女 広岡浅子の生涯」が示すように、明治期に女性財界人として、また女性の地位向上に貢献した女傑の物語。近年、NHKテレビでもドラマ化され、その中のギャグ、ビックリポンも使われている。テレビも軽い喜劇だったが、それを押し進め漫画的喜劇になっている。テレビと異なるのは、舞台らしくしっかり、泣かせ、笑わせていることだ。特定企業ど大学の名が出てくるのは気になる。古川智映子原作、小池倫代脚本、田村孝裕演出。
高畑淳子が京の豪商・三井家から大坂の豪商・加島屋に嫁いだ浅子。振袖を振り回して闊歩する出だしからワイルドぶりを発揮し、疲弊した嫁ぎ先を再建、石炭事業の成功、女子大学設立運動と強い台詞でパンチをきかせながら最後まで一気に見せる。はまり役である。
赤井英和が浅子の夫、信五郎。テレビの和事風の人物とは異なり、しっかりした立役の風情。作品世界に合ったのか、台詞がなめらかである。
田山涼成が信五郎の弟・正秋で、狂言回しに芸達者ぶりを見せた。南野陽子が浅子を支える小藤を控えめに演じ、にぎやかな舞台に静かなアクセントを付けた。葛山信吾が大阪財界の大物・五代友厚と教育者・成瀬仁蔵の二役。
5日所見。
――28日までシアタークリエ。

2017年10月10日 (火)

芸術祭十月大歌舞伎評

<見>昼の部は世界最長と言われるインドの叙事詩「マハーバーラタ」を歌舞伎化した新作「極付印度伝・マハーバーラタ戦記」の通し。破滅的な世界戦争を慈愛で止めようとする迦楼奈と武力で制止しようとする阿龍樹雷王子との対立を軸に青木豪が脚本を書き、宮城聰が演出した。戦の虚しさを説く物語は分かりやすく、スペクタクルで早い展開。「仮名手本忠臣蔵」の「大序」や「三番叟」を思わせる件もある。竹本、長唄やツケなど歌舞伎の要素もふんだんに盛り込まれ、楽しめる舞台だ。
菊之助がシヴァ神と二役で迦楼奈を勤めた。逞しさと苦悩を併せ持つ戦士。近年立役が目立つが、今回初めて骨太の演技を見せた。今月の収穫である。
次ぎに評価するのは七之助の鶴妖朶王女。悪女でありながら純粋な恋に泣く。矢継ぎ早に展開する中でじっくり人物を見せた。菊五郎が仙人久理修那で全体をまとめ、貫禄を示した。
時蔵の汲手姫。鴈治郎の帝釈天。松也の阿龍樹雷王子・梵天。萬次郎の羅陀、團蔵の弗機王。楽善の大黒天。左團次の太陽神。
夜の部は「沓手鳥孤城落月」から。落城寸前の大坂城の淀の方を描いた坪内逍遥の名作。石川耕士演出。今回は原作に戻し裸武者をカット、淀の方と秀頼母子に絞り込んだ。
玉三郎が淀の方に初挑戦。この役を当たり役にしていた歌右衛門のように大芝居にせず、落城の悲運による錯乱、息子秀頼への情愛をリアルに描いた。舞台も暗くし新劇調。淀の方の気位の高さは出ている。
七之助が神妙に秀頼を勤めた。松也の大野修理亮。彦三郎の氏家内膳。萬次郎の正栄尼。
次の「漢人韓文手管始」は唐使饗応を命じられた家の家老十木伝七が恋の遺恨でひどい仕打ちをする大通辞・幸才典蔵を殺める。
鴈治郎は初代以来演じている伝七に初挑戦。和事の柔らか味と芯の通った男の強さも併せ持つぴんとこなをうまく演じている。二枚目ぶりより三枚目の線が強く出ているのはこの人らしい。これに対し芝翫の典蔵も立敵の大きさがあり、面白い芝居を作った。
七之助の傾城高尾。松也の奴光平。
最後の長唄「秋の色種」は玉三郎が梅枝、児太郎を従え、深まりゆく秋の風情をしっとり踊る。
2日所見。
――25日まで歌舞伎座で上演。

2017年9月28日 (木)

焦点・劇団若獅子結成三十周年記念公演

赤城の山も今夜限りー。力強く、また切ない笠原章の名調子が観客の心をしかとつかんだ。9月27日に東京・新橋演舞場で開かれた劇団若獅子結成三十周年記念公演での、やくざの義侠心を描いた傑作「国定忠治」の名台詞である。
大正6年に澤田正二郎が創立、島田正吾、辰巳柳太郎の二枚看板で発展した劇団新国劇。男の義理人情、人間の誠を名台詞で歌い上げ、男性客を引きつけたが、女優芝居やテレビドラマ台頭の流れに抗えず、昭和62年に幕を閉じた。創始者澤田の遺志を継ぐべく、笠原ら新国劇有志で結成したのが若獅子である。
筆者は新国劇解散について当時、読売新聞にいくつもの記事を書いた。「七十年続いた“男の芝居”も女性観客主流の時代には勝てなかった」と記し、「後継者がいない」という島田の解散理由も載せた。その中で永山武臣(当時松竹社長)は、「解散は残念だが、新国劇の精神はきっとだれかが受け継いでいくと思う」と語っている。それが笠原たちであったわけだ。
今公演の幕が開く前にあいさつに立ったベテラン女優の南條瑞江は「ようやく30年を迎えた」と喜んだ。しかし、厳しい道程であったことをうかがわせる言葉だった。そして代表の笠原はゲストで「月形半平太」に出演した市川猿之助や「国定忠治」に出演した伊吹吾郎らとカーテンコールに並び、「これからも頑張ります」と今後の決意を述べた。
新国劇を解散に追い込んだ女優芝居やテレビドラマも、時移り、昔日の勢いはない。芝居にとって難しい時代に若獅子は如何に生き残るか。男の芝居の意地を見せてほしい。=敬称略

2017年9月27日 (水)

松竹「アマデウス」評

<見>老宮廷楽長サリエーリは、かつて大作曲家モーツァルトを殺したと告白する。その回想の中で、天才モーツァルトへの嫉妬、自分には彼が天才であることを理解できる才能しか与えてくれなかった神への怒りをぶちまけ、モーツァルトを破滅に追い込む顛末を語る。ピーター・シェーファーの名作を主演の松本幸四郎が演出。
幸四郎は昭和57年からサリエーリを演じ、今公演中に通算出演数450回を超す。当たり役のひとつである。サリエーリの年齢73歳を超えた幸四郎だが、20分の休憩をはさんで3時間近い舞台に出ずっぱり。歌舞伎に通じる力強い台詞術で観客を圧倒する。その気力、体力には驚かされる。サリエーリの狡猾、傲慢、卑屈、即ち人間の持つ負の部分を巧みに紡ぎあげる。
桐山照史のモーツァルトは歴代の中で最も子供っぽさを感じさせる。それだけ稚気に満ち、役に合う。サリエーリに押し負けてはいない。これは幸四郎の力量のせいもあろう。
モーツァルトの妻コンスタンツェは大和田美帆。まずまずの出来。
26日所見。
――10月9日までサンシャイン劇場で上演。

2017年9月21日 (木)

テレビ朝日「謎の変奏曲」評

<見>仏作家エリック・エマニュエル・シュミット作、岩切正一郎訳、森新太郎演出。
橋爪功と井上芳雄の二人芝居。
孤島に住むノーベル賞作家ズノルコ(橋爪)のところに地方新聞記者ラルセン(井上)が取材に訪れる。激しいやり取りの中から、ひとりの女性の情熱的な生き方と純粋な愛の生き方が浮かび上がってくる。お洒落と緊迫感の併存する好舞台である。
15分の休憩をはさんで2時間半。ふたりは、押せば引く、緩あれば急あり。巧みな台詞で緊張の糸を緩めない。。
橋爪は大物作家を時に傲慢に、時に愛嬌たっぷりに演じる。ベテランとして芝居をリードする。若き井上。前半、下手(したて)に出て初々しさを漂わせるが、後半、どんでん返しに次ぐどんでん返しで攻勢に転じてからは、骨太の演技を見せる。ミュージカルを離れた一般演劇でも舞台俳優としても地歩を固めつつあるようだ。
19日所見。
――24日まで世田谷パブリックシアターで上演。

2017年9月16日 (土)

東宝「ミッドナイト・イン・バリ~史上最悪の結婚前夜」評

<見>岡田恵和脚本、深川栄洋演出。
舞台はインドネシアのバリ。明日結婚式というのに、新婦の美幸子(栗山千明)は人のいい新郎の治(溝端淳平)に執拗に不満をぶちまける。たった2人の参列者、美幸子の母敏子(浅田美代子)も治に辛く当たり、治の父・久男(中村雅俊)は秘めた過去が露わに。
前半シビアな台詞が続き重苦しいが、途中から軽喜劇になる。
栗山が治を責める件を熱演。溝端は人柄の良さが出た。ベテラン2人も健闘。浅田が婿になる男に厳しく当たる件は新境地開拓。中村はコミカルな持ち味が温かみを醸し出した。
15日所見。
――29日までシアタークリエで上演。

2017年9月10日 (日)

松竹新喜劇新秋公演評

<見>昼夜各2本立てで上方の笑いと人情を堪能させる。
昼の部「新・親バカ子バカ」はかつて二代目渋谷天外、藤山寛美のコンビで人気を得ていた「親バカ子バカ」をそれぞれの子、三代目渋谷天外、孫、藤山扇治郎のコンビで復活させたニューバージョン。頼りない息子(扇治郎)が偽造誘拐を仕組んで守銭奴の父(天外)を諫める。扇治郎は祖父の寛美のようにバカを演じ切れないのでインパクトは弱いが、親子の情は感じられる。ゲストの久本雅美がホームレスを世話する民生委員で出ているが、大活躍はしないのはもったいない。ベテラン小島慶四郎がちょい役で顔を出し笑いを取ったのは年の功。
もう一本の「帰ってきた男」はまげ物。やくざ一家の犠牲になって島送りになっていた万吉(曾我廼家八十吉)が赦免船で帰国、4人の裏切りで一家がなくなったと聞かされ、復讐に燃え上がるが、相手はふがいない者ばかりで拍子抜け。
八十吉は万吉を骨太のやくざに演じ、主役の責務を果たした。復讐はいずれも肩透かしで終わるのは予想できるのだが、殴り込みに行くたびにどんな話が待っているのかと、わくわくさせる。これは八十吉と脚本の魅力による。
共演が達者揃い。5人もの幼児を抱え貧苦にあえぐ奈良留の曾我廼家文童、老いて殺してくれと頼む源兵衛の高田次郎ら喜劇の楽しみを満喫させる。
夜の部は「鼓」から。かつてある程度の人気を得ながら零落している古典的な漫才師此花家梅子(高田)は人気絶頂の弟子、梅吉(扇治郎)花子(久本)の計らいで、大劇場に出演するが、あろうことか上がってしまい、舞台をしくじる。
空威張り、卑しさ、有頂天、失意。高田は老いて落ちぶれた芸人の悲哀を陰影深く刻み込む。梅子の相方で女房梅太郎を情愛たっぷりに演じる井上恵美子の好演と相まって笑い、泣かせる。人生を考えさせる。
扇治郎、久本は師匠思いの弟子を神妙に演じ、支援者役の文童もいい。今月一番の舞台。
最後はまげ物「お染風邪久松留守」。借金取りの追われる大工の松吉(天外)と女房おそめ(久本)はそれぞれが流行のお染風邪で死んだことにして香典を集めるが。
天外と久本はテンポのいい演技で笑いを巻き起こす。曾我廼家寛太郎、扇治郎、八十吉、大津嶺子ら好助演。
7日所見。
――24日まで新橋演舞場で上演。

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