2020年2月11日 (火)

東宝「天保十二年のシェイクスピア」評

シェイクスピアの作品群を幕末天保年間の下総国に翻案した井上ひさしの力作。角書に「絢爛豪華 祝祭音楽劇」とある。歌唱力の高い出演者が多く、ミュージカルと言っていいだろう。宮川彬良音楽、藤田俊太郎演出。

下総で二軒の旅籠を持つ鰤の十兵衛(辻萬長)は三人の娘、長女・お文(樹里咲稔)、次女・お里(土井ケイト)、三女・お光(唯月ふうか)のうち孝心厚い二人に旅籠を譲ろうとするが、口のうまい長女、次女にやってしまい悲劇が始まる。これは「リア王」だが、長女、次女はやくざの女房になり、やくざの抗争に。「マクベス」「リチャード三世」「ハムレト」「オセロ」「ロミオとジュリエット」などシェイクスピア戯曲の登場人物と思しき人物が次々現れる。例えば佐渡の三世次(高橋一生)はリチャード三世、きじるしの王次(浦井健治)はハムレットといった具合。ハイテンションで歌い、笑わせ三時間余りを全く飽きさせずに見せる。

狂言回しの木場勝己、魔女を義太夫調で語った梅沢昌代がベテランの味。

シェイクスピアが描く西洋中世支配層の喜劇や悲劇を幕末のやくざの争いに移し替え、農民蜂起につなげていくのは井上の面目躍如というところか。

10日、日生劇場所見。

 

2020年2月 8日 (土)

歌舞伎座・二月大歌舞伎評

昼の部は十三代目片岡仁左衛門二十七回忌追善で当代が父の十三代目から継承した「菅原伝授手習鑑」の菅丞相を演じる。

幕開きは「加茂堤」。勘九郎の桜丸、孝太郎の女房八重で二人は若い斎世親王(米吉)と苅屋姫(千之助)の逢引を手助けするが、のどかな雰囲気を出している。

次の「筆法伝授」で仁左衛門が出る。丞相はせがむ希世(橘太郎)にではなく武部源蔵(梅玉)に伝授するが、源蔵の勘当は解かない。威厳のある丞相である。秀太郎の御台園生の前。

最後が「道明寺」。仁左衛門の丞相は父親譲りで神がかり。後世天神と崇められる菅原道真の品格、養女・苅屋姫への情愛で余人をもって代えがたい世界を生み出す。仁左衛門の年齢を考えると、この世界を生み出す後継者はいるのかと心配になる。

今回、この高い世界に負けないものが二つあった。一つは玉三郎の覚寿。三婆の手強さと娘への慈愛が交差し、時に丞相の世界の高さを上回る。もうひとつは葵太夫。緩急自在、情のこもった浄瑠璃が遠慮なく役者にぶつかってくる。三点指示で名舞台が成立した。

周りの芝翫の判官代輝国、孝太郎の立田の前、千之助の苅屋姫、歌六の土師兵衛、彌十郎の宿禰太郎も好演した。

夜の部は「八陣守護城」からで、これも十三代目片岡仁左衛門二十七回忌追善狂言。毒酒を飲まされながらも泰然自若の佐藤正清(加藤清正のこと)の役を父十三代目から受け継いだ我當が勤める。体調十分とは思えないが、懸命に演じる姿に役者魂を感じる。それが正清の忠誠心につながる。進之介が家臣斑鳩平次。

続く「羽衣」は羽衣伝説を題材にした長唄舞踊。玉三郎が天女を幻想的に舞う。勘九郎が漁師・伯竜。

「人情噺文七元結」は菊五郎が当たり役の左官長兵衛で、舞台に江戸の市井の風を吹き込む。酒好き、博打好きだがお人よしの長兵衛。

泣かせ笑わせる菊五郎の長兵衛も仁左衛門の菅丞相同様、余人をもって代えがたく、後継者どうなってると心配になる役だ。

雀右衛門の口やかましい長兵衛女房・お兼、時蔵の角海老女房・お駒、左團次の和泉屋清兵衛、梅玉の鳶頭・伊兵衛と周りも手堅い。

今回目を引いたのは、團蔵の角海老手代・藤助。柔らかい味が出た。女形の梅枝も文七をうまくこなした。亀蔵の家主・甚八、莟玉の長兵衛娘・お久も好演した。

最後の「道行故郷の初雪」は「新口村」を素材にした清元舞踊。梅玉の忠兵衛、秀太郎の梅川、松緑の万才松太夫で哀愁漂う舞台を作った。

4日所見。

 

 

 

2020年2月 6日 (木)

新橋演舞場・松竹新喜劇二月公演評

時代劇と新作現代劇で心温まる上方の笑いを見せている。

舘直志作「駕籠や捕物長」は駕篭屋の直作(曾我廼家寛太郎)お蝶(久本雅美)夫婦が領主・前田能登守(渋谷天外)や盗賊・赤鞘主水(天外二役)と絡む捕り物喜劇。久本と寛太郎が芸達者なところを披露する。ベテラン高田次郎が胴慾な金貸し・惣兵衛で顔を出す。

もう一本は大映画監督の山田洋二の原作・脚本・演出で、わかぎゑふが脚本・演出助手を勤めた「大阪の家族はつらいよ」。

リタイアした平田周造(渋谷天外)と妻・富子(井上恵美子)、周造の長男で働きもの・幸之助(曾我廼家八十吉)とその妻で専業主婦の史枝(川奈美弥生)、二人の子供、そして周造の次男で結婚できない庄太(藤山扇治郎)が同居する三世代住宅が舞台。富子が古稀の誕生日に離婚の意思を明らかにしたため、周造の娘・金井成子(泉しずか)と働きのない夫・泰蔵(寛太郎)も加わってひと騒動に。

類型的な設定だが、さすが山田監督、洒落た展開で泣き笑いを作り出していく。

幸之助が亭主関白的な一面を見せるのには違和感を覚えるが、富子や史枝が妻の悩みや夢を語り女性客の共感を呼ぶのではないか。

周造と庄太がそれぞれ花道で辛い心中を独白するのはうまい演出。天外は男の悲哀を漂わせ好演であった。

3日所見。

 

2020年1月23日 (木)

ミュージカル「シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ」評

音楽座でヒットしたミュージカルが井上芳雄の主演でよみがえった。小林香演出。

作曲家志望の悠介(井上)は佳代(咲妃みゆ)と恋に陥るが、佳代は辛い過去を持ち、しかも遠い惑星から来た宇宙人であった。現代版「かぐや姫」の趣である。

井上は抜群の歌唱力の中に持ち味の誠心と正義を塗りこめた。咲妃は逆境にめげず愛を貫く佳代を力強く演じた。悠介と佳代の純愛が胸を打つ。

かつての本作で活躍した土居裕子、畠中洋のほか濱田めぐみら実力派が脇に揃い見ごたえのあるミュージカルになった。

22日、シアタークリエ所見。

2020年1月13日 (月)

新橋演舞場・初春歌舞伎評

恒例となった海老蔵大活躍公演。五月に十三代目市川團十郎白猿襲名を控え、熟成度が高まっている。

昼の部の幕開きは孝太郎の雪姫、獅童の松永大膳で「金閣寺」。孝太郎は夫・直信への愛を鮮明に描く。獅童は国崩しを演じる素材を持っていることを示した。

右團次の此下東吉が立派。友右衛門の狩野直信。齋入の慶寿院尼。九團次の佐藤正清。

「鈴ヶ森」は海老蔵の幡随院長兵衛。この若さで、十分な貫禄。予想通りだが、感心するほかない。莟玉の瑞々しい白井権八。こちらは予想以上の出来。今月の収穫。九團次の飛脚・早助も健闘。

昼の最後は秋元康作・演出。田尾下哲演出の新作「雪蛍恋乃滝」。本題の上に「NINJA KABUKI」と付いている。果たして海老蔵が忍者・稲妻。敵国から原爆と思しき新兵器の製造法を盗もうとする稲妻はその国の月姫と恋に陥る。海老蔵は冷静かつ情熱的な忍者で魅力を発揮。冒頭、勸玄が幼少期の稲妻として登場、立ち回りを披露して喝采を浴びる。

獅童が稲妻の主君・清宗、右團次が政虎。児太郎の政虎の娘・月姫。

夜の部は「め組の喧嘩」から。海老蔵のめ組の辰五郎。力士たちとの大喧嘩の決意を隠している間は少々だれるが、決意を明らかにしてからは颯爽たる鳶頭。胸のすく威勢のよさ、だけでなく、大勢をまとめる力も見せる。

孝太郎の女房・お仲。喧嘩をしない辰五郎をなじるところに情がある。勸玄が辰五郎倅・又八で「子別れ」までかわいく、かつ達者なところを見せる。梅玉、左團次、右團次らも顔を出し大きな舞台になった。

最後は九代目團十郎ゆかりの舞踊劇「雪月花三景」。帝の寵愛を受けた小督局(児太郎)を源仲国が迎えに行く。海老蔵が仲国を豪快に踊る。長女・ぼたんが胡蝶の精で出演した。

7日、新橋演舞場所見。

 

 

2020年1月11日 (土)

国立劇場初春歌舞伎評

東京・国立劇場一月恒例の菊五郎一座の歌舞伎公演だが、今年の外題はズバリ、「菊一座令和仇討」。大南北の「御国入曽我中村」を菊五郎監修、国立劇場文芸研究会補綴で復活上演した。

鎌倉の執権大江家のお家騒動におなじみの「鈴ヶ森」の幡随院長兵衛や白井権八、「鑓の権三」の笹野権三を綯い交ぜにした奇想天外な物語。両花道をしつらえて激しい立ち回りで目を楽しませる。肩の凝らない正月らしい作品である。

松緑の笹野権三、菊之助の白井権八。名高い主人公二人が両花道を使って華々しい立ち回りを繰り広げるのが見どころ。

座頭の菊五郎が幡随院長兵衛、医者の寺西閑心実は天下を狙う蒲冠者範頼で貫禄を示す。

時蔵、萬次郎、團蔵、権十郎ら一座おなじみの面々が揃い、菊五郎は大詰で、「菊一座はワンチーム」で締めくくった。めでたい初芝居。

6日、国立劇場大劇場所見。

2020年1月 9日 (木)

初春大歌舞伎評

昼の部は長唄舞踊「醍醐の花見」から。関白になった秀吉の威勢を示す一幕。梅玉の秀吉で、めでたさがあり初春の幕開きにふさわしい舞台になった。魁春の北の政所、福助の淀殿、芝翫の智仁親王、勘九郎の石田三成で華やか。

続く「奥州安達原・袖萩祭文」は源義家と安倍貞任・宗任兄弟の戦いを背景にした時代物浄瑠璃。

雀右衛門の袖萩。封建時代の武家社会にあって、父親の意に反して結婚、盲目となり、貧苦にさいなまれながら幼い娘を連れて親元を訪ねてきた女の悲しみを切々と演じる。東蔵が父・直方でベテランの味。笑三郎の母・浜夕、熱演する子役の娘・お君。浄瑠璃・葵太夫、三味線・寿治郎の竹本に乗り、感動的な愁嘆場を作った。

後半は芝翫の貞任、勘九郎の宗任、七之助の義家で歯切れのよい幕切れ。

続いて大看板の2演目。

狂言舞踊「素襖落」は吉右衛門が酒を飲んで主人への伝言を忘れる太郎冠者。大名に仕える小者に徹しながらも、意地の強さを見せて上品な笑いを取る。

又五郎の大名某、雀右衛門の姫御寮、鷹之資の次郎冠者、種之介の太刀持鈍太郎。

昼の最後になるのが白鸚の「河内山」。高僧に化けて大名の魔の手から娘を救い出そうとする河内山だが、見破られるまで低い声で通す。化けの皮がはがれてからの居直りとの落差を付けている。「相なるべくは山吹の」の相なるべくを強調、金を要求する本音を分かりやすくしている。

「玄関先」での見破られての啖呵から声を大きくし、花道の「馬鹿め」で最高潮。胸のすく芝居である。前演目の吉右衛門と共に、円熟を越え枯淡の境地にさしかかっている。

歌六の高木小左衛門。芝翫の松江出雲守。錦吾の北村大膳。

夜の部は「義経腰越状・五斗三番叟」で始まる。昼の最後に引き続いて白鸚の演しもの。大事な時に好きな酒を断り切れず泥酔してしまう軍師・五斗兵衛を丁寧に描く。錦吾の錦戸太郎、男女蔵の伊達次郎が五斗兵衛を陥れる敵役で健闘。歌六の泉三郎、芝翫の源義経、猿之助の亀井六郎。

続く「連獅子」は猿之助の親獅子の精、團子の仔獅子の精。やはり毛ぶりで感動させる。

最後は三島由紀夫の喜劇「鰯売恋曳網」。勘九郎演じる鰯売・猿源氏が父親らの協力を得て、大名になりすまし高根の花の傾城・蛍火、実は大名家のお姫様と結ばれる。

勘九郎が奇妙な売り声を上げ、頼りない純情男を好演、現代っ子風に蛍火を演じる七之助と息が合う。

東蔵の猿源氏父・海老名ら脇も充実、今月一番楽しめる舞台になった。

4日、歌舞伎座所見。

2019年12月13日 (金)

国立劇場12月歌舞伎評

前半は白鸚が28年ぶりに佐々木盛綱に取り組んだ「盛綱陣屋」。徳川幕府に忖度し、時代設定を江戸時代から鎌倉時代に変えた作品である。

敵対すると言えども弟・高綱が武士道の道を外さないよう盛綱は自軍が生け捕った高綱倅小四郎の切腹を画策する。白鸚は難局や悲劇に直面する盛綱を楷書で演じ、人物の大きさを示すとともに、弟や甥に対する情愛をにじませる。それが、父。高綱の首実検で偽首と知りながら小四郎が進んで切腹する愁嘆場を大きくしている。

吉弥が盛綱に頼まれ小四郎に切腹を迫る盛綱母・微妙。三婆の一つ微妙にしては若いが、孫を死に追いやる苦悩が出て健闘。愁嘆場を盛り上げている。

その他の共演者も好演している。

魁春が小四郎の母。篝火、高麗蔵が盛綱倅小三郎の母・早瀬。

楽善が北条時政で貫禄と腹黒さ、彌十郎は和田兵衛で豪胆さと正義感を出している。

幸四郎が信楽太郎、猿弥の伊吹藤太。それぞれ、暴れの注進、道化の注進で場を盛り上げた。

そして、小四郎、小三郎の子役もよかった。

後半は映画界の喜劇王、チャールズ・チャプリン作「街の灯」を元にして昭和6年に木村錦花が歌舞伎化した「蝙蝠の安さん」。チャプリンの大ファンという幸四郎が主人公の安さんを勤める。

国立劇場文芸研究会補綴、大野裕之脚本考証。大和田文雄演出。

その日暮らしの安さんは盲目の草花売りの娘・お花と出会い、草花を買うなど助けてやるが、目が治ると助けてやった人物であることを明かさず去る…。心温まる物語だ。

幸四郎は笑いを取りながら飄々と演じ、爽やかな後味のいい舞台を作っている。

顔に蝙蝠の入れ墨のある安といえば「切られ与三」の小悪党・蝙蝠安を思い浮かべるが、そのイメージはない。

新悟のお花。可憐で若々しい声が役に合う。

友右衛門が人情味のある大家・勘兵衛で、世話物に強いところを見せた。

猿弥が酒を飲むと人格が変わる上総屋新兵衛で芸達者ぶりを示した。

9日所見。

2019年12月 8日 (日)

十二月大歌舞伎評

昼の部は大佛次郎の「たぬき」から。演出は石川耕士。

飲み過ぎて仮死状態となった柏屋金兵衛(中車)は火葬寸前に息を吹き返し、甲州屋長蔵と名乗り新しい人生を始めるが幼い息子に見破られる。

中車は息子と出会うラストで親の情をうまく出している。

彦三郎の太鼓持蝶吉。物語を進める重要な役である。襲名以降、低音の効いた迫力ある声で存在感を高めている俳優なので太鼓持ちとゆう柔らかい役をどう演じるか期待したが、まだ工夫の余地がある。

市蔵が多吉でいい味を出した。

児太郎の妾お染。

清元舞踊「保名」。玉三郎が恋に身を焦がした安倍保名を華やかに踊る。

昼の部の最後は「阿古屋」。源氏方の秩父庄司重忠に平景清の逃亡先を白状せよと迫られた愛人の遊君阿古屋は琴、三味線、胡弓を心静かに奏で、身の潔白を証明する。長年、歌右衛門と玉三郎しか演じてこなかった女形の大役を昨年12月に歌舞伎座で玉三郎が若手の梅枝と児太郎に伝承、3人で交互出演した。今回はその再演。伝承を加速させる貴重な公演である。今年は梅枝(4日)と児太郎(6日)を見た。昨年も拝見した梅枝は三曲に安定感が増したようだ。初めて見る児太郎は台詞にも三曲にも初々しさがあった。好企画である。

もう一つこの企画で成功しているのは彦三郎を重忠に起用したことだ。低音の口跡がよく立派な捌き役になりそうだ。

九團次の岩永左衛門。

 

夜の部は「神霊矢口渡」から。松緑の渡し守頓兵衛、梅枝のお舟。松緑にはまだ老けの敵役は気の毒のようだ。梅枝が一目ぼれした男を一途に思う娘心を好演している。

坂東亀蔵の新田義峯、児太郎の傾城うてな。

最後はグリム童話「白雪姫」を日本の天正時代に翻案した新作「本朝白雪姫譚話」。玉三郎の発案だそうで、竹柴潤一脚本、玉三郎補綴・衣装考証、花柳壽應・壽輔演出・振付。

玉三郎が白雪姫。美しい声で16歳の姫君になりきり、白雪のような清純さを出している。

驚くべき活躍をしたのは児太郎。「鏡よ鏡」と世界一の美女はだれかと問い、白雪姫を毒りんごで殺す母親の野分の前を熱演、主役のような大働きをしている。童話では白雪姫の美貌に嫉妬し老婆に化けて姫を殺すのは継母だが、ここでは実母。現代の子殺しに通じる迫力がある。(童話でも古くは実母バージョンもあったそうだが)

梅枝が鏡の中の娘。野分の前を諭すように答える。

獅童が野分の前の魔の手から姫を逃れさせる郷村新吾。歌之助が姫と結ばれる輝陽の皇子。彦三郎が従者晴之進。

姫を匿う7人の妖精は子役が勤めているが、水準の高い歌唱力で聴かせる。

今月一番楽しめるのはこの演目。

歌舞伎は伝統を守る一方、次々と新趣向を導入することで活力を再生産してきたが、これもそのひとつであろう。

4,6日、歌舞伎座、所見。

2019年11月11日 (月)

11月歌舞伎「孤高勇士嬢景清」評

初代白鸚が景清を演じてきた「嬢景清八嶋日記」を国立劇場文芸研究会が補綴、吉右衛門が景清を勤めた。

平家滅亡後も源頼朝を執拗に付け狙う景清は娘のけなげな行為を知り、復讐への執着を捨て頼朝に帰順する。心の解放をテーマとする作品になった。

奈良・東大寺で怨敵・頼朝と対峙した景清は頼朝の度量を知り、復讐を断念するため自ら両眼をえぐり、盲目となる。現実では考えられない行為だが、吉右衛門の迫真の演技はこの行為を納得させる。

日向の国で物乞いとなった景清は、はるばる訪ねてきた娘・糸滝が身を売り金を工面したことを知り慟哭する。この嘆きは激しく、大きな見せ場を作った。

やがて源氏に対する憤怒から解き放たれた景清は船で鎌倉に向かうが、ここでは恕の境地を表した。見方を変えればノーサイド。後味のいい芝居になった。

歌六が頼朝と、糸滝が自ら身を売りにくる女郎屋・花菱屋亭主長の二役でいい仕事をした。頼朝は人徳の備わった大物に描き、長は女房に頭の上がらない好人物にした。

東蔵が口うるさい花菱屋女房おくま。芸達者なところを見せる。

雀右衛門の糸滝、又五郎の肝煎左治太夫、錦之助の秩父庄司重忠。

5日、国立劇場所見。

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