2019年5月20日 (月)

焦点・「十二代目市川團十郎の世界」の旅

五月晴れの加賀路を旅した。

「十二代目市川團十郎の世界」が5月末に出版研究センターから出版されることになり、ゆかりの地を訪ね、取材に協力してくださった方々へのお礼を申し上げるためである。

本書の第一章は以前出版した「家元探訪」の中の市川團十郎さんのインタビュ-部分、第二章は團十郎夫人堀越希実子さんのインタビュー。そして第三章では團十郎さんのあまり知られていないいくつかの活動を紹介している。その中で彼は長年石川県小松市の子供歌舞伎を指導、金沢市の金沢学院大学で客員教授として講義をしていたのだ。

真夏を思わせる強い日差しの11日、小松市は「お旅まつり」で賑わっていた。

まずJR小松駅前にあるこまつ芸術劇場うららを訪ねた。團十郎さんが設計アドバイザーを務めた、花道が設置できる約800席の中劇場である。地元の木材を生かした落ち着いた雰囲気。展示室には團十郎さんの「勧進帳」の舞台写真や押し隈が展示されていた。

午後になると大通りの交差点に作られた特設会場に山車6台が終結、曳山子供歌舞伎が上演された。「碁太平記白石噺」と「恋飛脚大和往来」の名場面。

女子を中心にした小中学生が熱演。けなげでかわいい演技に拍手が集まった。この子たちの先輩を團十郎さんが指導したかと思うと感慨深いものがあった。この日、午後と夜の公演で2万人動員したそうだ。

13日には金沢市郊外の高台にある金沢学院大学を見学した。團十郎さんが平成3年に講義した講堂を見せてもらった。当時この大学は女子大であった。てれながら話す團十郎さんを想像しながらキャンパスを後にした。

旅行中しばしば道や交通機関を尋ねたが、皆さん親切であった。團十郎さんの温かい人柄と重なっているような気がしてならない。(伝統文化新聞にも掲載します)

2019年5月10日 (金)

團菊祭五月大歌舞伎評

七代目尾上丑之助初舞台を始め昼夜に華やかな演目が揃った。それだけに客席も盛り上がっている。

昼の部はめでたく「寿曽我対面」で幕が開く。

松緑の工藤祐経、梅枝の曽我十郎、萬太郎の五郎。

ほかに尾上右近の大磯の虎、米吉の化粧坂少将、歌昇の小林朝比奈、坂東亀蔵の鬼王新左衛門など。

若手起用の舞台だが、どうしてもベテランの名舞台が頭にあるので物足りなさは否めない。

松緑は貫禄を出そうとしているようだが、周囲の役役との差があまり出ない。

萬太郎は張り切っているが幼く感じる。つり合いがとれているのは梅枝だ。しかし、皆が若々しいだけに清々しさはある。

続く「勧進帳」は海老蔵の弁慶、松緑の富樫、菊之助の義経。花形がしっかりした舞台を作った。

中でも海老蔵がいい。読み上げ、山伏問答から六方まで力強さと抑制がうまく調和した。エコーがきいているかのような魅力的な口跡は独自の芸を作りつつある。一年後の團十郎襲名が芸の上達を促進しているように思える。

松緑は弁慶を思いやる情が出た。弁慶との対比でもう少し声を高くした方がいいのでは。

菊之助は柔弱に演じることの多い義経をきっぱりとした強さのある人物にしている。新鮮である。

脇で光る右團次の亀井。

昼の最後は「め組の喧嘩」。

菊五郎劇団の総帥菊五郎が、め組の頭辰五郎。同劇団の財産演目で江戸っ子の心意気を堪能させてくれる。喧嘩はいいことではないが、胸のすく芝居を作った。

御大菊五郎に花道を走らせるのはいささか気の毒なようだが、まだまだ体力気力も充実している。心配なのは“江戸の風”を吹かすことのできる後継者だろう。

時蔵の女房お仲は回を重ねて手慣れたもの。相撲側は左團次の四ツ車、又五郎の九竜山。

夜の部は舞踊「鶴寿千歳」。時蔵と松緑が典雅に舞う。新しい令和と丑之助初舞台を祝っているようだ。

「絵本牛若丸」は劇中で菊之助の長男丑之助の初舞台の口上がある。丑之助は、菊之助の弁慶を相手に牛若丸を勤める。はきはきした台詞、舞台度胸あり。

祖父菊五郎はもちろんのこと、普段は團菊祭に出演しない吉右衛門も登場しにぎやか。左團次、時蔵、海老蔵、松緑、雀右衛門、松也らがにぎやかに門出を祝った。

続き「娘道成寺」は菊之助の白拍子花子。情念というより品のある舞である。

最後は「御所五郎蔵」。

松也が歌舞伎座の大舞台で大役に起用された。

前半は役を大きく見せようとしたためか、空回りの様子。愛想尽かしされてから五郎蔵らしくなった。回を重ねればよくなるだろう。

彦三郎が対立する星影土右衛門。野太い大声で健闘している。欲しいのは敵役らしさ。

梅枝の傾城皐月、尾上右近の逢州。

6日所見。

2019年4月20日 (土)

焦点・滝沢歌舞伎ZEROからの出発

平成の若衆歌舞伎として注目してきた滝沢歌舞伎が、折しも平成最後の月となる四月、東京・新橋演舞場で「滝沢歌舞伎ZERO」と名を改め再出発した。

平成18年にジャニーズ事務所の人気アイドル滝沢秀明を座長にして「滝沢演舞城」の公演名でスタートしたこのシリーズ。昨年末に滝沢がタレント活動から引退し今回は演出に専念することになったため、後輩の岩本照、深澤辰哉、村上真都ラウールら若いSnow Ⅿanの9人が舞台を牽引することになった。従って“滝沢なし”のゼロからの出発というわけだ。

舞台を見る。牛若丸と弁慶が出会う五条大橋、石川五右衛門の立ち回り、総踊りなどの第一幕、二幕は鼠小僧の話で従来の素材を踏襲している。鼠小僧はうまく滝沢からの代替わりをテーマにしている。洋楽に三味線、和太鼓、などの和楽器を組み込み、歌舞伎のツケうちも多用しているのもこれまで通り。滝沢演出は自分のいない分、強烈なケレンでカバーした。その最たるものは本水の噴水。9トンの水を使ったそうだ。

テンションの上がったところで、おなじみの「WITH LOVE」で幕にした。

Snow Manのすがすがしい演技。盛り上がる客席。スタートは成功である。しかし、これは滝沢人気に負うところも多いのではないか。令和の若衆歌舞伎として発展していくことができるのだろうか。Snow Man

にとって来年が正念場であろう。歌舞伎と称するのだから、和の心を忘れないでほしい。

そしてさらに期待するのは滝沢である。演舞場の舞台以外の活動はあまり知らないが、かなりの才人と見受けられる。舞台演出、映画監督、音楽プロデュース、あるいは経営者。どの方面で力を発揮するのだろうか。とにかく楽しみである。

(伝統文化新聞にも掲載します)

2019年4月14日 (日)

四月大歌舞伎表評

昼の部の幕開き「平成代名残絵巻」は今月で平成の元号が終わることにちなんだ今井豊茂の新作。藤間勘十郎の演出・振付。平家の時代が終わり源氏の時代に変わるところを「熊谷陣屋」など利用してにぎやかに描いている。

昨年九月に舞台復帰した福助が常盤御前で出演している。声はしっかりしてきた。完全復帰を望む。

その息子児太郎が遮那王、巳之助が知盛で健闘、両花道を六法で引っ込んだ。珍しい両花道での幕外。どちらも見たいので時間差で引っ込んでほしかった。

次の「新版歌祭文」は「野崎村」の前に「座摩社」が付いて分かりやすい。又五郎が油屋手代小助で小悪党ぶりがうまい。「野崎村」は歌六の久作、時蔵の久作娘お光、雀右衛門の油屋娘お染、錦之助の油屋丁稚久松、秀太郎の油屋後家お常と、実力派が揃い、堅実な舞台になった。ラストでお光の哀れ、久作の慈愛がよく出た。ここで梅に鶯、新年号に不思議に一致している。

「寿栄藤末廣」は今年米寿を迎える藤十郎が女帝役で典雅に踊った。大看板で米寿まで舞台に立つのは珍しい。上方歌舞伎、近松作品に尽力してきた重鎮。プログラムで自ら述べているように、まだまだ活躍してもらいたい。

昼の部の締めくくりは「鈴ヶ森」。菊五郎の白井権八に吉右衛門の幡随院長兵衛。菊五郎の瑞々しさ、吉右衛門の貫禄。名台詞が生きる。二人の大看板が、今月この役だけなのは残念。

夜の部は仁左衛門の「実盛物語」から。まさに生締物が似合う役者。さわやかさと情味で今月一番見ごたえのある舞台を作った。

歌六が瀬尾で好演した。昼の久作とは違い敵役だが、貴重な親父方である。寺嶋眞秀が太郎吉でがんばった。孝太郎が小万、米吉が葵御前。

続く「黒塚」は猿之助の老女岩手実は安達原の鬼女。詩的、哲学的味わいを醸し出し、最後は鬼女で迫力を見せる。

猿弥が強力太郎吉を好演。錦之助の阿闍梨祐慶。

最後の「二人夕霧」は「吉田屋」の後日譚。藤屋伊左衛門は二人の夕霧の間で右往左往する。鴈治郎の伊左衛門、孝太郎が後の夕霧、魁春が先の夕霧。東蔵が吉田屋女房おきさ。芸達者がそろっているが、上方和事のおかしみを出すにはもうひと工夫。

4日所見。

2019年3月10日 (日)

歌舞伎座三月大歌舞伎評

昼の部は「女鳴神」から。歌舞伎十八番「鳴神」のパロディ。鳴神上人を鳴神尼実は織田信長に滅ぼされた松永弾正の娘で信長への復讐に燃える女性である。

孝太郎が鳴神尼。位取、色気があり、歌舞伎座での主役の責務を果たした。

鴈治郎が鳴神尼を篭絡させる二枚目の雲野絶間之助と荒事の押し戻し、佐久間玄蕃をうまく演じ分けた。

舞踊「傀儡師」は幸四郎が清元を洒脱に踊る。

「傾城反魂香」はおなじみの「土佐将監閑居」の前に珍しく「高島館」を付けた。これがあると、修理之助が筆で消した虎の出てくる理由がよくわかる。ここで幸四郎がモテモテ男の狩野元信。線の細い二枚目がよく似あう。米吉が銀杏の前。

眼目の「土佐将監閑居」は白鸚の浮世又平。口跡のいいこの人が吃音の絵師を演じるのは得意手を封じられての勝負のようだが、師匠将監に認められない境遇を嘆く件は壮絶。歌舞伎の空気を熱くする。

猿之助が又平女房おとく。しゃべり芸だけでなく、細やかな芸を丁寧に見せている。彌十郎が将監。近年すっかり貫禄が付き、これは本役である。高麗蔵の修理之助、門之助の将監北の方。鴈治郎の雅楽之助。

 

夜の部は「盛綱陣屋」で始まる。仁左衛門がはまり役の佐々木盛綱。弟高綱の息子小四郎(勘太郎)の自害に心打たれ、高綱の首実検で偽る。情があり理非曲直をわきまえた武将である。

秀太郎が三婆のひとつである微妙。強さの中に自愛がある。

左團次が重量感ある和田兵衛。歌六が老獪な北條時政。雀右衛門が高綱妻篝火で母親の情をたっぷり。孝太郎の盛綱妻早瀬。仁左衛門を中心に手堅い周りが好演、葵太夫らの竹本もよく、今月最も充実した舞台になった。

続く2演目はダブルキャスト。

常磐津の「雷船頭」は奇数日が猿之助の女船頭、弘太郎の雷。偶数日が幸四郎の船頭、鷹之資の雷。いずれも洒落た踊り。

最後が「弁天娘女男白浪」。奇数日が幸四郎の弁天小僧、猿弥の南郷力丸、猿之助の鳶頭。幸四郎の弁天は「浜松屋」で正体を見破られるまでの武家娘姿に違和感が少なくなってきた。正体を表してからは不良少年の感じが出ていい。「知らざあいって」の名セリフもまずまず。猿弥は正体を見破られる前と後を力強く演じ分けた。

偶数日は猿之助の弁天。さすがに武家娘は安心してみていられる。名セリフもうまく歌い上げた。花道の引っ込みでは中性的な色気も出して芸が細かい。幸四郎の南郷。こちらが本来の役だろう。うまく演じた。

白鸚が日本駄右衛門で、さすがの貫禄。

友右衛門の浜松屋幸兵衛、橘三郎の番頭与九郎も好演。

「稲瀬川勢揃い」は亀鶴の忠信利平、笑也の赤星十三郎が加わってにぎやかに幕。

5、8日所見。

2019年3月 4日 (月)

焦点・浅草 祭礼行事と浅草の声明

東京・国立劇場の大劇場で3月2日、特別企画公演「浅草―祭礼行事と浅草寺の声明―」が開かれた。浅草の浅草寺や浅草神社にまつわる祭礼の行事や浅草寺の声明を舞台で行う異色の公演である。

祭礼行事を集めた前半は「木遣り」から。江戸消防記念会第五区のメンバーが張りのある男性的な美声を披露した。

続く「浅草三社囃子」は浅草あやめ連が締太鼓、大太鼓、鉦、笛で華麗に賑やかに。

「浅草神社巫女舞」は舞姫が平和を願って厳かに「浦安の舞」を舞った。

「神事びんざさら舞」は保存会が獅子舞や田楽舞を神妙に披露した。

「白鷺の舞」は8人の舞人が白鷺に扮し、楽人とともに優雅に舞い踊る。舞台とうまく合った、絵になる動きは芸術的である。

祭礼行事の最後は「金龍の舞」。長さ18メートル、重さ88キロ、金鱗8888枚という大きな龍を8人で操る。静と動が交差する動きはダイナミック。客席を練り歩いて喝采を浴びた。舞台中央で見せたトグロを巻いた姿は大迫力。社会の悪をにらんだように思えた。参道で拝見したことはあるが、それ以上の迫力と感動があった。

後半は「浅草寺の声明」。「法華八講」を数十人の僧侶が唱える。事前の説明によると舞台上での読経だが、法会でもあるそうだ。音楽的でもあり、論議は劇的でもある。1時間の長丁場だが、飽きることはない。聞き終えると、心が洗われたような気がした。

宗教と伝統の重みを考えさせてくれる公演であった。一方で、ここ数年、浅草寺は外国人観光客でにぎわっている。この公演の中で英語による紹介もあった。外国人観光ブームがここまで押し寄せてきたか、とも思った。(伝統文化新聞にも掲載します)

2019年2月15日 (金)

新橋演舞場二月競春名作喜劇公演評

劇団新派と松竹新喜劇の名作に両劇団幹部やゆかりの俳優が垣根を超えて出演、笑と涙の傑作喜劇を作った。藤原紀香ら両劇団以外の俳優も出演しているが、作品と俳優の相互乗り入れで相乗効果を高めた好企画である。

最初は新派の当たり狂言を基にした「華の太夫道中」。戦後間もない京都島原、おえい(波乃久里子)の営む廓宝永楼に男にだまされた、身重娘きみこ(藤原)が売り飛ばされてくる。2人が実の母娘のようになる人情噺。

この中でおえいと幼馴染の隠居善助(曾我廼家文童)が恋仲であった遥か昔を語り合うシーンは純愛、懐旧、老境が重なり合う名場面。ベテランの力を見せつけた。

もう一本は松竹新喜劇の財産演目「おばあちゃんの子守唄」。先の東京五輪のころの大阪船場、岩井節子(水谷八重子)が孫の顔見たさに四国から製薬会社を営む息子平太郎(渋谷天外)を訪ねると、孫の1人喜代子(春本由香)がいない。喜代子は平太郎が解雇した社員吉田(藤山扇治郎)と駆け落ちしていた。孫や子を思う心で涙腺を刺激するのだが、爆笑を誘うのは喜代子たちが間借りしている部屋の主人川村を演じる曾我廼家寛太郎。訪ねてきた節子を喜代子の祖母と知らず、節子や平太郎の悪口をいいながら内情を暴露していく。達者な話芸で上方喜劇の面白さを堪能させる。

13日所見。

2019年2月10日 (日)

焦点・歌舞伎と文楽の「阿古屋」

東京・国立小劇場の二月文楽公演第三部で「阿古屋」が上演された。昨年十二月に歌舞伎座で見たばかりである。両者とも優れた舞台だが、それぞれに感銘を受けた。

「阿古屋琴責めの段」は江戸時代に大坂竹本座で初演された人形浄瑠璃「壇浦兜軍記」の三段目。遊女阿古屋は逃亡している恋人景清の行方を白状せよと連行される。取り調べの畠山重忠

に行方を知らないのが真実なら琴、三味線、胡弓の三曲を迷いなく弾けと命じられる。文楽でも、後に移行された歌舞伎でも名場面である。

昨年十二月の歌舞伎座では、歌舞伎女形でただ一人阿古屋を演じてきた玉三郎が、若い梅枝、児太郎を指導、3人が交互出演でこの大役を演じ、話題になった。玉三郎と梅枝の阿古屋を見たが前者はゆったりとした演奏の中に阿古屋の哀しみが漂い、歌舞伎美の世界を展開した。後者は芸の継承への熱意がうかがえた。そして、玉三郎は若手が阿古屋の日は敵役岩永で舞台に立った。若手の演技を見つめていたのだろうか。伝承への執念を感じた。

さて、今回の文楽。津駒太夫が阿古屋を熱演、織太夫の重忠に正義のすがすがしさがあった。津國太夫は岩永。歌舞伎では台詞を語らない敵役だが、大いに悪をアピールした。人形の勘十郎は阿古屋がまるで三曲を演奏しているように遣った。若手三味線方の寛太郎は時に重み、時に可笑しみを織り込みながらダイナミックに三曲を奏でた。歌舞伎俳優には負けないぞ、自分はプロのミュージシャンだといわんばかりの気迫があった。琴、三味線、胡弓それぞれに大きな拍手を浴びたのもうなずける。

文楽が歌舞伎に一矢報いた、と勝手に思い込んだ舞台であった。(伝統文化新聞にも掲載します)

2019年2月 7日 (木)

歌舞伎座二月大歌舞伎評

40歳の若さで逝った初代尾上辰之助の三十三回忌追善狂言が3演目。影と男を感じさせた好漢を懐かしく思い出す。

その最初は昼の部の「すし屋」。初代辰之助の長男松緑が大役いがみの権太に挑戦した。気合が入って威勢のいい小悪党になっているが、「もどり」で手負いの感じがいささか弱い。そのためか、大きな愁嘆場にならない。

菊之助の弥助。維盛であることを顕してから品格がある。橘太郎の弥左衛門女房おくらも好演である。

芝翫の梶原景時、梅枝のお里、團蔵の弥左衛門、新悟の若葉の内侍。

続いて「暗闇の丑松」。料理人丑松は、女房お米を金持ちの妾にしようと企むその母お熊をあやめる。逃げた先から戻ると、お米は兄貴分四郎兵衛の手で女郎にされていたという悲惨な話。初代の盟友だった菊五郎が料理人丑松。時蔵が丑松女房お米。菊五郎は一本気な男の転落を陰影深く描く。若々しさも芸の力。時蔵も薄幸な女の愛をにじませる。脇もよく、江戸の市井と人の心の暗闇を活写した。

序幕で、團蔵の浪人潮止は卑猥な中に浪人者の哀しさがある。橘三郎のお熊は地声で通し強欲ぶりが出た。二幕で松也が喧嘩早い料理人祐次、亀蔵の妓夫三吉も好演。大詰、左團次の四郎兵衛に重みがあり、東蔵は意地が悪く色気を振りまく四郎兵衛女房お今を達者に演じる。権十郎の岡っ引常松、橘太郎の湯屋番頭甚太郎もそれらしい雰囲気を出す。周囲がいいのは菊五郎の力だろう。今月一番充実した芝居だ。

追善狂言の三番目は夜の部の「名月八幡祭」で松緑がだました芸者美代吉を殺す縮屋新助。うぶで真面目な田舎の商人をうまく演じている。仁に叶っているのだろう。将来当たり役になりそうだ。

そして玉三郎の美代吉、仁左衛門の船頭三次がいい。だらしないが艶っぽい芸者と無頼の情夫。年齢を感じさせず瑞々しい。追善以外では夜の部の「熊谷陣屋」で、吉右衛門の熊谷。いつもながら、冒頭の「やい、女」で見る者を源平時代に引き込む。初陣のわが子を案じて戦場まで追いかけてきた妻相模を叱るのだが、現代では考えられない発言。吉右衛門はそれを納得させた。最後の「夢だ」で感動させる。

魁春の相模、雀右衛門の藤の方、菊之助の義経、歌六の弥陀六と手堅い布陣。

ほかに舞踊が昼の部に芝翫と孝太郎の「団子売」、夜の部、

梅玉、左近、米吉、梅丸、錦之助、又五郎の「當年祝春駒」。

4日所見。

2019年1月26日 (土)

焦点・十三代目市川團十郎襲名

歌舞伎俳優の市川海老蔵が1月14日、東京・歌舞伎座でマスコミ会見し、

来年5月に同座で十三代目市川團十郎白猿を襲名することを発表した。

同時に長男の堀越勸玄が八代目市川新之助を名乗り初舞台を踏む。

江戸歌舞伎を代表する大名跡の襲名。

歌舞伎座の本舞台を使う異例の会見に駆けつけた。

 

海老蔵は伝統を守るとともに、新しい時代を感じさせる團十郎になりたいと

抱負を語った。前者は歌舞伎十八番などお家芸への取り組みである。

後者は昨年7月に挑戦したオペラ歌手や狂言師を招いての「源氏物語」など

画期的な公演を指すのであろうか。

いや、歌舞伎十八番を制定した幕末の名優七代目團十郎なども念頭にあるようだから、

もっとスケールの大きいものかもしれない。大いに期待したい。

 

私が注目したのは5歳の勸玄の発言である。

将来どんな役を演じたいかの問いに長兵衛と答えた。

これは海老蔵が今月、新橋演舞場で演じた「極付幡随長兵衛」の長兵衛である。

共演しているので、かっこよさを間近で感じているのだろうか。

実は筆者も素晴らしいと思ったから、この発言に驚いた。子供はよく見ていると。

評価したのは、狼藉者をなだめ、また旗本水野と和解しようとする長兵衛に

人徳が見られたこと。そして子別れに情があったことである。

 

海老蔵は6年前に父十二代目市川團十郎を、2年前に夫人を病で失っている。

筆者は昨年、十二代目の子供歌舞伎指導や骨髄バンク推進活動などを取材、

人望の厚さを知った。

前向きで、家族愛を感じさせる夫人の闘病ブログは多くの人に愛読された。

この2人から人徳と情を受け取り、それを本人の努力で身につけたものと思う。

 

今や船出の時。

来年5月から3か月連続の歌舞伎座公演に始まり、2年がかりで全国を巡演する。

一回りも二回りも大きな團十郎になってほしい。

=敬称略(伝統文化新聞にも掲載します)

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