2019年7月18日 (木)

焦点・歌舞伎鑑賞教室インスタ4300超え

歌舞伎普及のため、1時間ほどの演目を解説付き、しかも安価で見せる国立劇場(東京・半蔵門)の歌舞伎鑑賞教室が、今年も六月、七月の二か月にわたり上演された。

六月は虎之介らの解説「歌舞伎のみかた」のあと「神霊矢口渡」。鴈治郎が渡し守頓兵衛を熱演。壱太郎のお舟、虎之介の新田義峰が瑞々しく、光った。

七月は新悟と玉太郎の解説。芝居は「車引」と「棒しばり」。松緑が松王丸と次郎冠者で、いずれも主役の任を果たした。坂東亀蔵の梅王丸と太郎冠者、新悟の桜丸。松江の時平と曽根松兵衛いずれも若々しい舞台になった。

ところで歌舞伎鑑賞教室は高校生を対象に国立劇場の開場翌年から始まり、近年は一般にも一部開放し、この七月公演は第九十六回目となる。昨年で観客動員六百万人を超えたという。

歌舞伎普及に貢献しているのは間違いないが、一昨年六月公演からスマホを使った、正確に言えばスマホを使わせて普及を図る戦術を始めている。

芝居では撮影禁止が普通なのだが、解説の時間に撮影を許可しているのだ。七月も、解説者が「一分間だけ写真を撮っていいですよ」と撮影を許可「歌舞伎みたよ」とネット上への掲載を要請すると、高校生たちは一斉にスマホを取り出し撮影を始めた。

では、このうちどれほど「歌舞伎みたよ」がネット上に掲載されているのか。

手がかりは国立劇場ホームページにある。

トップページのアカウントを見ると、インスタグラム件数は7月18日現在で4350とあった。鑑賞教室以外のも多少あるらしいが、一昨年6月以来の掲載数に近いようだ。

この何倍もの友人がこれを見る可能性がある。インスタグラムのほかツイッターでの発信もある。

歌舞伎上演劇場の周辺にいると歌舞伎ブームのようだが「歌舞伎という言葉は聞いたことがある」程度の認識しかない人も多い。ネット上拡散作戦の勝利を期待する。=敬称略

(伝統文化新聞にも掲載します)

2019年7月11日 (木)

歌舞伎座七月大歌舞伎評

昼夜で海老蔵が活躍。今年も海老蔵公演の趣。

昼の部は「高時」から。

右團次の北條高時。権力者の横暴、横柄さを熱演している。

次は池田大伍の新歌舞伎「西郷と豚姫」。

いかついイメージの立役、獅童が女形、しかも豚姫とあだ名されるお玉で、優男の錦之助が太い眉の豪放磊落な西郷というから、笑いを誘う芝居になりはしまいかと恐れたがシリアスな好舞台になった。

獅童は容姿に劣等感を持つ女性のいじらしい恋心を丁寧に演じている。3年前「嵐の夜に」で情が出せるようになったが、今回もよく出ている。

錦之助の西郷も豪胆でいい。

さて、これからが夜の部の終わりまで海老蔵奮闘公演。

「素襖落」は海老蔵の太郎冠者。

狂言らしい台詞回しで軽く笑いを取る。ただしこれはまだまだ助走。

獅童の大名某。児太郎の姫御寮。

昼の最後は「外郎売」。

海老蔵の外郎売。お家芸歌舞伎十八番のためか力が入る。長男・堀越勸玄を貴甘坊の役で連れて出る。勸玄が外郎売の早口言葉を数分間もかわいく語る。客席は拍手喝采というより興奮のるつぼだ。

一昨年七月、前月に母を失ったばかりの勸玄が舞台に立った。その時、女性客は勸玄の母になりきり、あるいは祖母になりきっているような異様な雰囲気であった。

今月もまだその雰囲気が続いている。早口言葉を無事に言い終えることが出来るかどうか。幼いわが子、わが孫を心配するような女性客の熱気が充満していた。

梅玉の工藤。魁春の大磯の虎。獅童の小林朝比奈。雀右衛門の化粧坂少将。児太郎の小林妹舞鶴。

夜の部は「星合世十三團 成田千本桜」の通し。

タイプの異なる三立役、知盛・権太・忠信を立派に勤めることは至難の業とされる義太夫狂言「義経千本桜」を織田紘二、石川耕士、川崎哲男、藤間勘十郎が補綴・演出。海老蔵が上記三役を含む十三役を演じ分け、疾走した。

三立役のほか、若衆(小金吾)、親父(弥左衛門)、さらに女形(卿の君)など幅広い役を演じ、宙乗り、早替わり、大立ち回りであっと言わせる。海老蔵の魅力満載の舞台である。

特によかったのは知盛。さっそうとした銀平、知盛の正体を顕してからの勇者ぶり。豪快な入水から天に上る宙乗り。わくわくさせる。

その他の役では、もう少しじっくりやってもらいたいものもあるが、本作はスピードが命だから仕方あるまい。

宙乗りに早替わりというと、かつては猿翁の専売特許のようなものであったが、近年やや影を潜めている。海老蔵はその伝承をも念頭に置いているのであろう。重要な歌舞伎の要素なのだから。

こう書くと海老蔵一人芝居に思われるかもしれないが、そうではない。

ベテラン梅玉が品格のある義経、魁春の典侍の局、左團次が重々しい梶原景時で舞台に安定感を与えている。雀右衛門の静御前、萬次郎の尼妙林、右團次の相模五郎も好演である。

8日所見。

2019年7月 4日 (木)

新橋演舞場七月公演「笑う門には福来たる」評

副題が「女興行師 吉本せい」で、お笑いの大手企業・吉本興業の創業者・吉本せいの半生記。

藤山直美が5年前の初演に続き、せいを演じている。病後初舞台となった昨年の「おもろい女」で天才漫才師・ミスワカナを笑いと影で造形したが、今回は笑いと情で演劇の醍醐味を堪能させた。

せいは成功者だが、夫、娘、息子、恋人に先立たれる。相次ぐ悲しみの中にそれぞれの情を描いていく。

随所に芸達者ぶりを披露するが、建前を語る台詞の末尾で凄みを効かせ、本音を感じさせて笑わせる芸は余人をもって代えがたいものである。

田村亮の道楽の治まらない夫・泰三、林与一の破天荒な桂春団治ら周囲も好演。喜多村緑郎はせいの弟・正之助で冷酷な経営者の一面を演じた。

柔らかく優しい大阪弁で笑いと涙を包んだ舞台であった。そういう大阪弁が次第に失われつつあるような気がする。そうだとすれば、保存の意味で貴重な舞台でもある。

4日所見。

2019年6月19日 (水)

焦点・令和初の人間国宝の会

伝統芸の最高峰を集めた人間国宝の会が6月16日、東京・国立劇場小劇場で開かれた。毎年この時期に開かれ今年は13回目だが、令和ではもちろん初めてである。

参加した人間国宝は第一回から会を牽引している新内節・新内仲三郎、毎回参加している囃子方・堅田喜三久、そして一中節・宇治紫文、義太夫節・竹本駒之助、狂言・野村万作の5人である。

順を追ってみる。

幕開きは一中節「小春髪結の段」。紫文は小春の哀しい心の深淵を語り聴かせた。三味線は宇治紫卯。

ここで仲三郎と織田紘二の解説トーク。

次の「関取千両幟」は仲三郎構成による新内と義太夫の掛け合い。浄瑠璃では仲三郎長男・多賀太夫が関取女房を、女流義太夫の駒之助が関取・猪名川を語り、三味線は仲三郎と義太夫節の鶴澤津賀寿が掛け合いした。

これに本職の相撲呼び出しや江東相撲甚句会の相撲甚句も加わり、重層的でドラマチックな舞台になった。

続く、喜三久構成の囃子組曲「鷹」は喜三久の小鼓、堅田喜三郎の大鼓、風聲晴久の笛。鷹の生態を描き、格調と洒脱が交錯する一曲。

最後は狂言「伊文字」で妻乞いの話。万作が女と使いの者の二役で枯淡の演技を披露。孫の裕基が主で狂言師としての成長ぶりを見せた。高野和憲が太郎冠者。

演目終了後、木遣り連中が登場、手締めを行ったが、高い芸で競い合ったこの会を和ませた。

人間国宝というアピールしやすい通称を最大限に生かして伝統芸能の普及を図るのが本会の趣旨であろう。昨年から主催者が千代田区から民間の人間国宝の会に変わったので心配したが、令和最初の公演は無事に終わったようである。来年以降も継続することを期待する。=敬称略

(伝統文化新聞にも掲載します)

2019年6月 9日 (日)

歌舞伎座六月大歌舞伎評

昼の部は大看板2人がそれぞれ時代と世話の名作で見せる。

まず吉右衛門が当たり役のひとつ「石切梶原」の梶原平三。花道の出から時代物の格調を漂わせる。理非曲直をわきまえた生締物の爽快さがある。「刀の目利き」「石切」の名場面は瑞々しさより枯淡と評した方がいいだろう。

又五郎が大庭三郎。平三に対峙する人物の重みはあるものの、悪の匂い乏しい。

歌六の青貝師六郎太夫。いまさらだが、老けは堂に入ったもの。米吉が娘梢。歌昇の俣野五郎。

もうひとつは仁左衛門の「封印切」。

敵役八右衛門で印象深い演技を見せたが、今回は主役の忠兵衛。花道の出から優柔不断で頼りない男であることを強烈に印象付ける。

和事味をアピールしながら封印切りの悲劇に突き進む。脇役にも恵まれ見ごたえのある舞台を作った。

孝太郎の梅川は忠兵衛への思いが素直に出た。

愛之助が八右衛門。忠兵衛役の仁左衛門に貫禄負けしているが、敵役の使命は十分果たした。

秀太郎の井筒屋おえん。今や余人をもって代えがたい茶屋の女将である。彌十郎の槌屋治右衛門。

ほかに幸四郎、松也、松江、東蔵の「寿式三番叟」、魁春、雀右衛門、児太郎の「女車引」。

 

夜の部は、まんがを原作にした三谷幸喜作・演出の通し狂言「月光露針路日本」。

江戸時代、伊勢の船頭光太夫ら17人の乗った船が難破、ロシアに漂着、苦難の末、10年後に帰国するという冒険物語。三谷は苦難の旅にもかかわらず、喜劇作家の本領を発揮し笑いを連発させる。義太夫やツケうちなど歌舞伎の技法を駆使し、犬ぞりの場面など見せ場も作って観客を楽しませた。

幸四郎が光太夫。不屈の精神と情に厚い船頭をダイナミックに演じた。

猿之助は庄蔵とロシアの女帝エカテリーナの二役。兼ねる役者の強みを発揮した。病を得て足を切断しロシアに留まることになった庄蔵が望郷の念に苦しむ件は、名作「俊寛」を思わせる熱演であった。

白鸚は船親司の三五郎とポチョムキン公爵の二役で貫禄を示し、舞台の重しになった。歌舞伎外から八嶋智人が博物学者ラックスマンで出演、芸達者なところを見せた。

ほかに愛之助、彌十郎、松也らの出演。

3日所見。

2019年5月20日 (月)

焦点・「十二代目市川團十郎の世界」の旅

五月晴れの加賀路を旅した。

「十二代目市川團十郎の世界」が5月末に出版研究センターから出版されることになり、ゆかりの地を訪ね、取材に協力してくださった方々へのお礼を申し上げるためである。

本書の第一章は以前出版した「家元探訪」の中の市川團十郎さんのインタビュ-部分、第二章は團十郎夫人堀越希実子さんのインタビュー。そして第三章では團十郎さんのあまり知られていないいくつかの活動を紹介している。その中で彼は長年石川県小松市の子供歌舞伎を指導、金沢市の金沢学院大学で客員教授として講義をしていたのだ。

真夏を思わせる強い日差しの11日、小松市は「お旅まつり」で賑わっていた。

まずJR小松駅前にあるこまつ芸術劇場うららを訪ねた。團十郎さんが設計アドバイザーを務めた、花道が設置できる約800席の中劇場である。地元の木材を生かした落ち着いた雰囲気。展示室には團十郎さんの「勧進帳」の舞台写真や押し隈が展示されていた。

午後になると大通りの交差点に作られた特設会場に山車6台が終結、曳山子供歌舞伎が上演された。「碁太平記白石噺」と「恋飛脚大和往来」の名場面。

女子を中心にした小中学生が熱演。けなげでかわいい演技に拍手が集まった。この子たちの先輩を團十郎さんが指導したかと思うと感慨深いものがあった。この日、午後と夜の公演で2万人動員したそうだ。

13日には金沢市郊外の高台にある金沢学院大学を見学した。團十郎さんが平成3年に講義した講堂を見せてもらった。当時この大学は女子大であった。てれながら話す團十郎さんを想像しながらキャンパスを後にした。

旅行中しばしば道や交通機関を尋ねたが、皆さん親切であった。團十郎さんの温かい人柄と重なっているような気がしてならない。(伝統文化新聞にも掲載します)

2019年5月10日 (金)

團菊祭五月大歌舞伎評

七代目尾上丑之助初舞台を始め昼夜に華やかな演目が揃った。それだけに客席も盛り上がっている。

昼の部はめでたく「寿曽我対面」で幕が開く。

松緑の工藤祐経、梅枝の曽我十郎、萬太郎の五郎。

ほかに尾上右近の大磯の虎、米吉の化粧坂少将、歌昇の小林朝比奈、坂東亀蔵の鬼王新左衛門など。

若手起用の舞台だが、どうしてもベテランの名舞台が頭にあるので物足りなさは否めない。

松緑は貫禄を出そうとしているようだが、周囲の役役との差があまり出ない。

萬太郎は張り切っているが幼く感じる。つり合いがとれているのは梅枝だ。しかし、皆が若々しいだけに清々しさはある。

続く「勧進帳」は海老蔵の弁慶、松緑の富樫、菊之助の義経。花形がしっかりした舞台を作った。

中でも海老蔵がいい。読み上げ、山伏問答から六方まで力強さと抑制がうまく調和した。エコーがきいているかのような魅力的な口跡は独自の芸を作りつつある。一年後の團十郎襲名が芸の上達を促進しているように思える。

松緑は弁慶を思いやる情が出た。弁慶との対比でもう少し声を高くした方がいいのでは。

菊之助は柔弱に演じることの多い義経をきっぱりとした強さのある人物にしている。新鮮である。

脇で光る右團次の亀井。

昼の最後は「め組の喧嘩」。

菊五郎劇団の総帥菊五郎が、め組の頭辰五郎。同劇団の財産演目で江戸っ子の心意気を堪能させてくれる。喧嘩はいいことではないが、胸のすく芝居を作った。

御大菊五郎に花道を走らせるのはいささか気の毒なようだが、まだまだ体力気力も充実している。心配なのは“江戸の風”を吹かすことのできる後継者だろう。

時蔵の女房お仲は回を重ねて手慣れたもの。相撲側は左團次の四ツ車、又五郎の九竜山。

夜の部は舞踊「鶴寿千歳」。時蔵と松緑が典雅に舞う。新しい令和と丑之助初舞台を祝っているようだ。

「絵本牛若丸」は劇中で菊之助の長男丑之助の初舞台の口上がある。丑之助は、菊之助の弁慶を相手に牛若丸を勤める。はきはきした台詞、舞台度胸あり。

祖父菊五郎はもちろんのこと、普段は團菊祭に出演しない吉右衛門も登場しにぎやか。左團次、時蔵、海老蔵、松緑、雀右衛門、松也らがにぎやかに門出を祝った。

続き「娘道成寺」は菊之助の白拍子花子。情念というより品のある舞である。

最後は「御所五郎蔵」。

松也が歌舞伎座の大舞台で大役に起用された。

前半は役を大きく見せようとしたためか、空回りの様子。愛想尽かしされてから五郎蔵らしくなった。回を重ねればよくなるだろう。

彦三郎が対立する星影土右衛門。野太い大声で健闘している。欲しいのは敵役らしさ。

梅枝の傾城皐月、尾上右近の逢州。

6日所見。

2019年4月20日 (土)

焦点・滝沢歌舞伎ZEROからの出発

平成の若衆歌舞伎として注目してきた滝沢歌舞伎が、折しも平成最後の月となる四月、東京・新橋演舞場で「滝沢歌舞伎ZERO」と名を改め再出発した。

平成18年にジャニーズ事務所の人気アイドル滝沢秀明を座長にして「滝沢演舞城」の公演名でスタートしたこのシリーズ。昨年末に滝沢がタレント活動から引退し今回は演出に専念することになったため、後輩の岩本照、深澤辰哉、村上真都ラウールら若いSnow Ⅿanの9人が舞台を牽引することになった。従って“滝沢なし”のゼロからの出発というわけだ。

舞台を見る。牛若丸と弁慶が出会う五条大橋、石川五右衛門の立ち回り、総踊りなどの第一幕、二幕は鼠小僧の話で従来の素材を踏襲している。鼠小僧はうまく滝沢からの代替わりをテーマにしている。洋楽に三味線、和太鼓、などの和楽器を組み込み、歌舞伎のツケうちも多用しているのもこれまで通り。滝沢演出は自分のいない分、強烈なケレンでカバーした。その最たるものは本水の噴水。9トンの水を使ったそうだ。

テンションの上がったところで、おなじみの「WITH LOVE」で幕にした。

Snow Manのすがすがしい演技。盛り上がる客席。スタートは成功である。しかし、これは滝沢人気に負うところも多いのではないか。令和の若衆歌舞伎として発展していくことができるのだろうか。Snow Man

にとって来年が正念場であろう。歌舞伎と称するのだから、和の心を忘れないでほしい。

そしてさらに期待するのは滝沢である。演舞場の舞台以外の活動はあまり知らないが、かなりの才人と見受けられる。舞台演出、映画監督、音楽プロデュース、あるいは経営者。どの方面で力を発揮するのだろうか。とにかく楽しみである。

(伝統文化新聞にも掲載します)

2019年4月14日 (日)

四月大歌舞伎表評

昼の部の幕開き「平成代名残絵巻」は今月で平成の元号が終わることにちなんだ今井豊茂の新作。藤間勘十郎の演出・振付。平家の時代が終わり源氏の時代に変わるところを「熊谷陣屋」など利用してにぎやかに描いている。

昨年九月に舞台復帰した福助が常盤御前で出演している。声はしっかりしてきた。完全復帰を望む。

その息子児太郎が遮那王、巳之助が知盛で健闘、両花道を六法で引っ込んだ。珍しい両花道での幕外。どちらも見たいので時間差で引っ込んでほしかった。

次の「新版歌祭文」は「野崎村」の前に「座摩社」が付いて分かりやすい。又五郎が油屋手代小助で小悪党ぶりがうまい。「野崎村」は歌六の久作、時蔵の久作娘お光、雀右衛門の油屋娘お染、錦之助の油屋丁稚久松、秀太郎の油屋後家お常と、実力派が揃い、堅実な舞台になった。ラストでお光の哀れ、久作の慈愛がよく出た。ここで梅に鶯、新年号に不思議に一致している。

「寿栄藤末廣」は今年米寿を迎える藤十郎が女帝役で典雅に踊った。大看板で米寿まで舞台に立つのは珍しい。上方歌舞伎、近松作品に尽力してきた重鎮。プログラムで自ら述べているように、まだまだ活躍してもらいたい。

昼の部の締めくくりは「鈴ヶ森」。菊五郎の白井権八に吉右衛門の幡随院長兵衛。菊五郎の瑞々しさ、吉右衛門の貫禄。名台詞が生きる。二人の大看板が、今月この役だけなのは残念。

夜の部は仁左衛門の「実盛物語」から。まさに生締物が似合う役者。さわやかさと情味で今月一番見ごたえのある舞台を作った。

歌六が瀬尾で好演した。昼の久作とは違い敵役だが、貴重な親父方である。寺嶋眞秀が太郎吉でがんばった。孝太郎が小万、米吉が葵御前。

続く「黒塚」は猿之助の老女岩手実は安達原の鬼女。詩的、哲学的味わいを醸し出し、最後は鬼女で迫力を見せる。

猿弥が強力太郎吉を好演。錦之助の阿闍梨祐慶。

最後の「二人夕霧」は「吉田屋」の後日譚。藤屋伊左衛門は二人の夕霧の間で右往左往する。鴈治郎の伊左衛門、孝太郎が後の夕霧、魁春が先の夕霧。東蔵が吉田屋女房おきさ。芸達者がそろっているが、上方和事のおかしみを出すにはもうひと工夫。

4日所見。

2019年3月10日 (日)

歌舞伎座三月大歌舞伎評

昼の部は「女鳴神」から。歌舞伎十八番「鳴神」のパロディ。鳴神上人を鳴神尼実は織田信長に滅ぼされた松永弾正の娘で信長への復讐に燃える女性である。

孝太郎が鳴神尼。位取、色気があり、歌舞伎座での主役の責務を果たした。

鴈治郎が鳴神尼を篭絡させる二枚目の雲野絶間之助と荒事の押し戻し、佐久間玄蕃をうまく演じ分けた。

舞踊「傀儡師」は幸四郎が清元を洒脱に踊る。

「傾城反魂香」はおなじみの「土佐将監閑居」の前に珍しく「高島館」を付けた。これがあると、修理之助が筆で消した虎の出てくる理由がよくわかる。ここで幸四郎がモテモテ男の狩野元信。線の細い二枚目がよく似あう。米吉が銀杏の前。

眼目の「土佐将監閑居」は白鸚の浮世又平。口跡のいいこの人が吃音の絵師を演じるのは得意手を封じられての勝負のようだが、師匠将監に認められない境遇を嘆く件は壮絶。歌舞伎の空気を熱くする。

猿之助が又平女房おとく。しゃべり芸だけでなく、細やかな芸を丁寧に見せている。彌十郎が将監。近年すっかり貫禄が付き、これは本役である。高麗蔵の修理之助、門之助の将監北の方。鴈治郎の雅楽之助。

 

夜の部は「盛綱陣屋」で始まる。仁左衛門がはまり役の佐々木盛綱。弟高綱の息子小四郎(勘太郎)の自害に心打たれ、高綱の首実検で偽る。情があり理非曲直をわきまえた武将である。

秀太郎が三婆のひとつである微妙。強さの中に自愛がある。

左團次が重量感ある和田兵衛。歌六が老獪な北條時政。雀右衛門が高綱妻篝火で母親の情をたっぷり。孝太郎の盛綱妻早瀬。仁左衛門を中心に手堅い周りが好演、葵太夫らの竹本もよく、今月最も充実した舞台になった。

続く2演目はダブルキャスト。

常磐津の「雷船頭」は奇数日が猿之助の女船頭、弘太郎の雷。偶数日が幸四郎の船頭、鷹之資の雷。いずれも洒落た踊り。

最後が「弁天娘女男白浪」。奇数日が幸四郎の弁天小僧、猿弥の南郷力丸、猿之助の鳶頭。幸四郎の弁天は「浜松屋」で正体を見破られるまでの武家娘姿に違和感が少なくなってきた。正体を表してからは不良少年の感じが出ていい。「知らざあいって」の名セリフもまずまず。猿弥は正体を見破られる前と後を力強く演じ分けた。

偶数日は猿之助の弁天。さすがに武家娘は安心してみていられる。名セリフもうまく歌い上げた。花道の引っ込みでは中性的な色気も出して芸が細かい。幸四郎の南郷。こちらが本来の役だろう。うまく演じた。

白鸚が日本駄右衛門で、さすがの貫禄。

友右衛門の浜松屋幸兵衛、橘三郎の番頭与九郎も好演。

「稲瀬川勢揃い」は亀鶴の忠信利平、笑也の赤星十三郎が加わってにぎやかに幕。

5、8日所見。

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