2018年9月13日 (木)

焦点・葛西聖司の著書「稚翠小松賑~歌舞伎のまち・こどもの力」

アナウンサーの葛西聖司が、石川県小松市の子供歌舞伎を紹介する「稚翠小松賑~歌舞伎のまち・こどもの力」を著した。小松市の発行で本体価格千円の新書版サイズ。コンパクトでありながら、内容豊富な労作である。

歌舞伎通の著者らしく5文字に収めた題名は、「わかみどりこまつのにぎわい」と読ませている。同市の歴史、産業から説き起こし、同地で盛んな子供歌舞伎の源流となる地元神社のお旅まつり曳山芝居の250年の歴史と現在の様子を紹介している。

そして著者と小松市との出会いは昭和62年、NHK番組「勧進帳八百年」の取材に始まるという。歌舞伎十八番の名作「勧進帳」で義経主従が同市にあった安宅関を通過して800年になるのを記念して、十二代目市川團十郎が市内で弁慶を演じたのである。

また、著者は小松に子供歌舞伎があることから平成11年に始まった「全国子供歌舞伎フェスティバル㏌小松」に毎年参加、司会者として参加しているというから驚きだ。その間、團十郎が設計アドバイザーを務めた小松芸術劇場が開場、團十郎亡き後、長男市川海老蔵、長女市川ぼたんも訪れたことを記している。

度重なる小松市訪問で数多くの人と出会った著者の筆には愛情がこもる。そこから、子供歌舞伎に励む子供と指導する大人たちの温かい絆、市川家と小松の人々との歌舞伎を通しての強い絆が浮かび上がる。=敬称略(伝統文化新聞にも掲載します)

2018年9月 7日 (金)

秀山祭九月大歌舞伎評

昼の部は「金閣寺」から。今月一番の注目は福助の病気復帰である。

金閣寺に捕らわれ、窓から三言ほど話すだけの慶寿院尼。顔を見せると客席から大きな歓声が上がった。声は弱くはないが、いつもより明晰ではない。病み上がりの大舞台だから仕方あるまい。予定されていた歌右衛門襲名の行方が気になるが、とにかくめでたい復帰である。

息子の児太郎が女形の大役・雪姫に起用されている。健闘しているものの、爪先鼠など直信への思いが薄い。

幸四郎が直信。柔らかみと憂いがあり、これは適役。

松緑が松永大膳。こちらも大役に挑戦である。口跡もよく堂々たる台詞だが、国崩しの悪の大きさが不足。

梅玉が此下東吉。この人独特の柔らかみが気になるが、武将としての強さはさすがにある。

次が萩原雪夫作、今井豊茂補綴の「鬼揃紅葉狩」。「紅葉狩」の改作だが、幸四郎の鬼女、錦之助の平維茂で華々しい舞台になった。

昼の部最後の「河内山」は祭主・吉右衛門が当たり役の河内山宗俊。序幕の質見世では小悪党ではないが、決して大物ぶらない。二幕の松江邸で大物の使僧・北谷道海に化けるが、その落差を付ける計算が行き届く。「山吹の」を時代に張り、「茶を一服」で世話に砕ける聞かせどころも、大げさにしない。玄関先の名台詞でたっぷり酔わせ、花道の「馬鹿め」を抑え気味にし、哄笑に重心を置く。スキのない一級品の「河内山」だ。

幸四郎の松江出雲守は貫禄が付き結構。又五郎の高木小左衛門に善方の風格があり、歌昇の宮崎数馬がキビキビしていい。吉之丞の北村大膳はもっと悪がほしい。

 

夜の部は「松寿操り三番叟」から。幸四郎の三番叟、吉之丞の後見でコミカルに踊る。

続く「俊寛」は吉右衛門が俊寛僧都。昼に続いての当たり役披露であるが、河内山は円熟、こちらは枯淡と言うべきか。芸に不足はないが、若い男女のために自己を犠牲にする側面は薄れ、俊寛自らの哀れが前面に出ている。それが残念である。

雀右衛門の千鳥、菊之助の成経。歌六の丹左衛門。

又五郎の瀬尾。達者なこの人にしては珍しく憎々しさが不足している。

最後は玉三郎、花柳寿輔演出の新作歌舞伎舞踊「幽玄」。能の「羽衣」「石橋」「道成寺」を鼓童の太鼓に合わせて玉三郎が踊る。歌舞伎にパーカッションのビートを持ち込んだ玉三郎の精神の若さに感心する。最初の「羽衣」は感動的であった。ただ、20分の休憩をはさんで2時間はいささか長い、と感じてしまった。

5日所見。

 

2018年9月 4日 (火)

新橋演舞場九月公演「オセロー」評

中村芝翫がシェークスピア悲劇に挑戦。奸臣イアーゴーにだまされ、若き妻デズデモーナの貞操を疑い殺してしまう黒人将軍オセローを演じた。

第一幕から、黒人差別をはねのけ知勇優れし軍人として国民の信頼を集めるオセローの人物の大きさを示して、存在感のある人物を作っている。圧巻はイアーゴーの讒言により罪なき妻を殺めてしまったことを知り、悔恨の情を吐露する最後の長台詞である。迫力ある台詞術でたっぷり聴かせる。自責の念、妻への愛が舞台から客席に押し寄せてくる。

歌舞伎では「すし屋」の権太、六段目の勘平などたっぷり聴かせる名台詞があるが、そういう役を勤める芝翫にはなかなかお目にかかれない。しかし、今月のオセローを見ていると長台詞を聞かせることの出来る役者になったと感じさせる。芝翫が一段階、格を上げた舞台であった。

役者の格を上げるといえば、先月の同じ新橋演舞場でも同様のことがあった。坂東巳之助が新作歌舞伎「ナルト」に主演、大劇場で主役を勤める器の大きさを示した。

偶然ではあろうが、この劇場で二か月続いて役者が大きくなる様を見た。

さて、「オセロー」に戻る。

神山智洋のイアーゴー。イアーゴー8主役説を唱えてもいいほどの大役だが、よく健闘した。今後は小悪党の屈折した心理状態の表現や演技に緩急を付ければさらに良くなるのではないか。

檀れいのデズデモーナは、現代っ子風なのが気になるものの、熱演であった。

中越司の美術が斬新で目を引いた。河合祥一郎の訳。

4日所見。

2018年8月19日 (日)

焦点・稚魚の会・歌舞伎会合同公演

東京・国立劇場小劇場で8月16日から20日まで、稚魚の会・歌舞伎会合同公演が開かれた。普段、脇役や端役として歌舞伎舞台の縁の下の力持ちになっている俳優が、この日ばかりは大役に挑戦する。毎夏、楽しみにしている公演である。

 

公演名を解説しておくと、稚魚の会は国立劇場の歌舞伎俳優養成研修を修了後、歌舞伎俳優に弟子入りし、舞台に立つ俳優の団体。歌舞伎会は直接、歌舞伎俳優の弟子になった俳優の団体である。

 

17日に拝見した。今年は3演目。幕開きは「寿曽我対面」で、新八の五郎、やゑ亮の十郎、仲助の工藤。しっかりした舞台を作っている。驚くべきことに、並び大名に至るまで、歌舞伎の台詞になっている。一部の梨園の俳優より歌舞伎らしい。

 

続く舞踊「勢獅子」は新十郎の鳶頭・鶴吉、松悟の亀吉、升吉の芸者・おますらでにぎやかに江戸の雰囲気を出している。

 

最後の「神霊矢口渡」は芝のぶのお舟。研修9期生で年長だが、既に本公演で大きな役に起用されているだけに別格のうまさ。橋吾の渡し守・頓兵衛、新次の新田義峰で見応えのある芝居になった。

 

ところで国立劇場の伝統芸能伝承者養成事業は昭和45年に始まった。歌舞伎俳優の分野では現在、全俳優299人中、96人が研修修了生。3分の1を占めている。歌舞伎に欠かせない竹本(義太夫)では圧倒的な占有率を示す。太夫では16人中、15人、三味線では15人中、12人。研修なしではやっていけなくなりそうだが、国立劇場の関係者によると、おしなべて研修の応募者は少ないという。このあたりに歌舞伎の問題点がありそうだ。

 

(伝統文化新聞にも掲載します)

 

2018年8月15日 (水)

八月納涼歌舞伎評

中堅若手が奮闘する夏恒例の三部制。

一部、 三部はかなり水準の高い舞台。二部は娯楽性のみ。

一部は北條秀司の「花魁草」を大場正昭が演出した。

安政の大地震で江戸を逃れた吉原の女郎・お蝶(扇雀)は地方でしばらく所帯を持った年下の元大部屋役者・幸太郎(獅童)が江戸に戻り人気役者に出世したのを知り、身を引く人情物。今月一番いい出来。扇雀がかつて男を殺し、しかも母も亭主殺しであったという暗い過去を持つお蝶の屈折した心理をうまく出している。情のこもった幕切れは泣かせる。一方、近年アクの強い骨太の演技で存在感を増している獅童が清新な若者を無理なく演じている。二人で好舞台を作った。

幸四郎がお蝶、幸太郎を助ける百姓・米之助で、ご馳走。老けの努力をしているようだが、まだ難しいようだ。萬次郎の芝居茶屋女将・お栄、彌十郎の座元・勘左衛門が好演。

続く舞踊「龍虎」は幸四郎・染五郎父子が龍と虎。竹本に乗りダイナミックに踊った。

一部の最後は落語「星野屋」を小佐田定雄が脚色、今井豊茂が演出した。

商いが行き詰った大店の旦那・照蔵(中)に手切れ金を渡されたおたか(七之助)は心ならずも心中を承諾してしまう滑稽話。中車は嫌味な男を達者に演じる。ただし、歌舞伎風に芝居がかった台詞は、まだまだ。

七之助が男を手玉に取る小悪魔的女性を自然体で演じる。愛嬌があり、かわいげがあり、この手の役は玉三郎をのぞけば当代一か。

獅童がその母お熊。幕開きの幸太郎とは打って変わって、意地の悪そうなお婆さんで笑いを取る。楽しめる喜劇になった。

二部は十返舎一九の原作を杉原邦生構成、戸部和久脚本、市川猿之助脚本・演出で舞台化した「東海道中膝栗毛」。

幸四郎の弥次郎兵衛、猿之助の喜多八コンビで二年前から手を変え品を変え上演している。今回は喜多八が舞台のバイトで事故死、地獄に落ちたというので弥次郎兵衛が地獄へ会いに行く。獅童、七之助、中車の三人が様々な役に扮して通夜に来て笑いを取り、地獄での騒動、弥次喜多の宙乗りとにぎやか。

ただ二年前ほど新鮮味がないのは見慣れたためか。

ほかに扇雀、歌昇、虎之介らの長唄舞踊「雨乞い其角」。

三部は四世鶴屋南北の「盟三五大切」を郡司正勝が補綴・演出、織田紘二が演出した。

薩摩源五兵衛(幸四郎)は芸者・小万(七之助)に金をだまし取られ、惨殺するが、取られた金は小万の情夫・三五郎(獅童)が源五兵衛に用立てた金だった。

幸四郎は襲名後、次第に重みが増している。なかなか結構な源五兵衛。七之助は男から逃れられない女の性をうまく出す。獅童ははまり役の小悪党・三五郎である。三人は重量感のある芝居を作った。

今月は獅童の中身の濃いい大車輪の活躍が光った。

10日所見。

2018年7月22日 (日)

焦点・日本伝統文化振興財団賞に新内多賀太夫

日本伝統文化振興財団の第22回財団賞贈呈式が7月19日、東京・白金台で開かれた。今年度の受賞者は新内節冨士元派家元の新内多賀太夫。1982年生まれの過去最年少受賞者だが、すでに活躍目覚ましい上、東京芸大を博士課程まで進み、論文が合格した学級の徒だけに如何なる受賞挨拶をするのか。興味津々、会場に足を運んだ。

挨拶の要旨を紹介する。

新内仲三郎という父であり師匠である人の背中を見てここまで来た。芸に対して誠実に向き合う父の存在がなければ、私はこの場にいなかったかもしれない。私は二世であり、甘えがある。そのため新内節を客観的に見る、また自分を俯瞰的に見ることを自分に課した。それが新内を磨き上げ後世につながると思い活動してきたことが評価されうれしい。東京芸大で新内とは兄弟のような豊後節系の常磐津を学んだが、新内でないため苦しい思いもした。しかし、このことが授賞理由の中で評価され、感激している。邦楽以外の分野での作曲や演奏もしているが、常に新内の旋律の良さや音楽コードを取り入れるように心がけている。これからも精進します。

以上を理路整然と丁寧に語った。聞いていると、最早、新内界に留まらず、邦楽界を牽引する逸材であることを感じさせる。

多賀太夫の浄瑠璃を聞いたことのない人は口先だけでは、と思うかもしれない。仲三郎の三味線に乗り、語った「蘭蝶 四谷」は相当ハイレベルであったことを付け加えておく。

  ◇

同財団の中島勝祐創作賞は鶴澤津賀寿。=敬称略(伝統文化新聞にも掲載します)

2018年7月21日 (土)

歌舞伎座七月大歌舞伎評

昼夜各一本、海老蔵主演の通し狂言を上演している。タイトルにはないが、まぎれもなく市川海老蔵奮闘公演。昼夜ともに成田屋ゆかりの作品で、海老蔵が若さとエネルギー、カッコよさに満ちあふれた舞台を展開している。それだけではない。今年はこの人ならではのやり方が際立つ。海老蔵歌舞伎を確立しつつあるように思える。昼夜に出演する息子・勸玄の人気も加わり、大盛況である。
そこで海老蔵らしさを挙げてみる。
昼が「三國無爽雙瓢箪久で、本能寺の変後、羽柴秀吉が信長の後継者の地位を得るまでを描く。原作の古典を織田紘二、石川耕士、川崎哲男、藤間勘十郎というベテランから若手まで当代一流の歌舞伎作者が結集、補綴・演出に名を連ねている。海老蔵ならではのことではないか。「西遊記」の夢から「本能寺」「高松城」「小栗栖」「近江湖水」「松下嘉兵衛」「大徳寺焼香」までトントンと運ぶ。
海老蔵は冒頭、スッポンから素顔で登場、あいさつと作品解説をする。人気者ならではのことだ。芝居では「西遊記」の孫悟空で宙乗りのサービス。本編では羽柴秀吉。息子勸玄が勤める織田三法師を擁して信長後継者の座を手にする見せ場を作り、獅童演じる明智左馬之助を相手に本水の立ち回り。胸のすく活躍である。
共演では右團次がしっかりした芝居で秀吉のライバル柴田と秀吉の昔の主人・松下嘉兵衛を好演した。萬次郎の金毛九尾狐が怪しげで面白い。
夜の部は「源氏物語」。光の君の恋の遍歴と苦悩を描く紫式部の古典小説を今井豊茂の作、勘十郎演出で舞台化した。
雅におおらかに王朝絵巻を繰り広げるのが普通だが、オペラ歌手が外国語で朗々と歌い、桐壺帝などを日替わりで能楽シテ方が勤める。映像もあり、能楽の地謡も響く。
光の君で二枚目ぶりを発揮する海老蔵は龍王も演じ宙乗りを披露する。宙乗りを見せるための宙乗りのようだが、観客は大喜びである。
オペラと能の迫力圧倒され、唖然としていると、最後に三味線やタイ語による総踊りで心が浮足立つはめに。フィナーレでは総踊りにオペラも加わり、不思議な高揚感に包まれる。
こういう傾き(かぶき)が出来るのは海老蔵だけだろう。
魁春の弘徽殿女御、雀右衛門の六条御息所、右團次の右大臣、児太郎の葵の上、勸玄の春宮ほか。
9日所見。

2018年6月29日 (金)

焦点・国立劇場の資料展示室で「悪」特集

東京・国立劇場大劇場の六月歌舞伎鑑賞教室を観劇する前に、劇場裏手にある伝統芸能情報館を訪ねた。
大劇場や同じ建物内の小劇場、裏手にある国立演芸場に比べ、伝統芸能情報館はいささか地味な存在。しかし、一階の資料展示室にはシアタースペースもあり、二階は国立劇場で上演した歌舞伎公演の台本、解説資料、プログラムはもとより伝統芸能の書籍を集めた図書室、三階は100人ほど収容できる設備の充実したレクチャールームがある。利用価値のある建物なのである。
この日、一階展示室のテーマは「悪を演(や)るーー歌舞伎の創造」であった。国崩しと呼ばれる大悪人、「先代萩」の仁木弾正、公家悪と言われる敵役、「暫」の清原武衡のほか、悪婆や端敵に半道敵。歌舞伎の舞台をにぎわす悪人たちが、舞台写真や錦絵などで紹介されている。悪の華から小悪党まで勢ぞろい。概ね勧善懲悪を描く歌舞伎の世界にあって、庶民の心の片隅に残る悪への憧憬もうかがわせて興味深い。
時間の都合でシアタースペースは覗けなかったが、その前で舞台の音声が漏れてきた。悪事を追及されれる男が「詮議なし、知れざる時は切腹いたす」と堂々と答えている。中村橋之助時代の芝翫さんが演じる仁木弾正の台詞である。
これを聞くと、「~なら、辞めますよ」という誰やらの発言を思い出した。両者、何の関係もない。ただ、辞めると切腹に共通点を感じただけなのだが。そういえば、ここ半蔵門は国会議事堂も近い。
  ◇
この企画は國學院大學博物館、太田記念美術館などとの連携企画。伝統芸能情報館の展示は9月まで。(伝統文化新聞にも掲載します)

2018年6月10日 (日)

六月大歌舞伎評

菊五郎、吉右衛門の大看板2枚並んで昼夜安定した舞台。
昼の部は「三笠山御殿」から。時蔵がお三輪。求女に恋する娘心、橘姫への嫉妬心が波打つように鮮やかに出た。今月一番の高得点を付けたい。
松緑が漁師鱶七。夜の部「巷談宵宮雨」で好演するなど、このところ腕を上げているが、ここは鱶七の大きさが出ず、ものたりない。現代では許されない台詞「やれ待て女」に説得力がない。
楽善が古怪な入鹿で存在感示す。松也の求女、新悟の橘姫まずまず。芝翫の豆腐買おむらはご馳走のはずだが、判然としない。
いじめの官女で、極端に男を出して笑いを取るのはいかがなものか。
続いて菊之助が清元「文屋」を軽やかに踊る。先月の「喜撰」に続いて立役の踊り。修業の一環だろうが、踊るなら女形の舞踊を見たいというファンも多いのでは。
昼の部最後は江戸の作者・河竹黙阿弥が大坂の侠客の世界を描いた「野晒悟助」。菊五郎が、悪を懲らす侠客・野晒悟助を20年ぶりに演じる。長老の域に達しながら、若い娘、小田五(米吉)とお賤(児太郎)に惚れられるモテモテ男を照れることなく爽やかに演じるのは芸の力。ラストの立ち回りは気の毒か。
左團次が敵役・提婆仁三郎で貫禄を示す。東蔵の扇屋後家香晒、菊之助の浮世戸平、権十郎の悟助子分忠蔵も好演。
夜の部は「夏祭浪花鑑」から。こちらも大坂の侠客の話。恩ある玉島磯之丞(種之助)を助けるため悪人の舅・三河屋義平次(橘太郎)を殺す侠客・団七九郎兵衛を吉右衛門が演じる。菊五郎の野晒悟助は江戸前の侠客だが、こちらは上方の香りが漂う。「長町裏」の殺し場で「悪い人でも舅は親」と罪の意識にさいなまれる姿を鮮やかに浮かび上らせる。当たり役である。
雀右衛門が徳兵衛女房お辰で、女の意地を見せる。歌六の釣船三婦、東蔵の女房おつぎ、錦之助の一寸徳兵衛と脇もいい布陣。
今月最後の「巷談宵宮雨」は意外な拾い物。芝翫の破戒坊主の龍達、松緑の龍達を殺し金を奪う甥の太十、雀右衛門の龍達の亡霊に悩まされる太十女房おいち。3人がうまくかみ合い怪談噺を盛り上げる。特に、芝翫が強欲でだらしのない悪党をうまく演じている。橘太郎も鼠取薬売勝蔵で不思議な味を出した。
6日所見。

2018年5月25日 (金)

焦点・変わる人間国宝の会

伝統芸能の様々な分野の至宝を集めた人間国宝の会が6月3日、東京・国立劇場小劇場で開かれた。12回目の今回も国宝が至芸を披露した。
今年集まった人間国宝は4人。
新内節の新内仲三郎は最初の演目「子宝三番叟」で三味線を弾く。典雅に聴かせた。次は沖縄の歌・三線、西江喜春で琉球古典音楽「かぎやで風節」、「仲風節」。風格と哀切を感じさせた。そして、長唄の東音宮田哲男が「喜撰」。重厚と軽妙を調和させ魅了した。もう1人、この会常連でお囃子の堅田喜三久は複数演目に出演し、曲を盛り上げた。
このほか琉球舞踊の国重要無形文化財総合指定の佐藤太圭子が「花風」を情趣豊かに踊った。仲三郎長男、新内多賀太夫作曲「空海」は仲三郎、多賀太夫ら新内と真言宗僧侶による声明が共演する荘重、壮大な新作であった。
さて、今回から公演主催者が変わった。過去11回は千代田区であったが、主催を降り、後援になった。これまで企画制作をしてきた仲三郎の会が主催者を務めている。
そのためか区長と人間国宝が舞台で話す「トーク」は姿を消した。
この会は人間国宝というインパクトの強い肩書を生かし、劣勢にある伝統芸能の振興を図る貴重な企画である。事の経緯は分からないが、千代田区が伝統芸能振興の旗振り役・主催者を降りたのは甚だ残念である。個人で主催することになった仲三郎にこれからも頑張ってもらいたい。人間国宝の皆さんも協力してあげてほしい。
=敬称略
(伝統芸能新聞にも掲載します)

«團菊祭五月大歌舞伎評