2019年8月20日 (火)

「焦点・稚魚の会・歌舞伎会合同公演

25回稚魚の会・歌舞伎会合同公演が8月15日から5日間、東京・半蔵門の国立劇場小劇場で開かれた。

稚魚の会は国立劇場が実施している伝統芸能伝承者養成研修の歌舞伎俳優コースを修了し歌舞伎俳優に入門した俳優の集まり。歌舞伎会は直接、歌舞伎俳優に入門した俳優の集まり。普段、脇役を勤めることの多い両会の人たちが、この日ばかりは大きな役を勤める公演である。

16日の舞台を見た。

幕開きの「一條大蔵譚」は吉兵衛の大蔵長成、春希の常盤御前。松三の鬼次郎、緑のお京。又紫朗の八剱勘解由に春之助の鳴瀬。流れよく筋が運ぶ。

続き「棒しばり」は松悟の次郎冠者、橋吾の太郎冠者、桂太郎の曽根松兵衛。3人とも狂言らしい台詞になっている。

舞踊「三社祭」はやゑ亮の善玉、音蔵の悪玉。同「関三奴」は音幸の奴音平、貴緑の奴貴平。いずれもキビキビして威勢がいい。

最後は「与話情浮名横櫛」。橋三郎の与三郎、好蝶のお富。桂太郎の番頭藤八。緑の下女およし。貴緑の下男権助。彌風の蝙蝠安。橋吾の和泉屋多左衛門。与三郎は名台詞が響き、お富は仇っぽさがある。安に役の性根が入っている。

どの演目も楽しめる。各俳優の歌舞伎への情熱が感じられる舞台であった。

ここで国立劇場の伝統芸能伝承者養成研修

事業に触れておく。昭和40年代から歌舞伎俳優のほか、歌舞伎の竹本、長唄、能楽、文楽など多くの分野で後進を育成している。

歌舞伎俳優では今年4月1日現在、全俳優304人中、研修修了者は99人で3割以上。中でも立ち回りなどに欠かせない名題下クラスは117人中60人と半数以上を占める。

占有率で見ると義太夫狂言に欠かせない竹本の太夫は何と17人中16人で9割以上。

その頂点にいる3期生竹本葵太夫はこのほど人間国宝に認定された。養成研修修了者では初めてだそうだ。=敬称略

 

2019年8月16日 (金)

八月納涼歌舞伎評

 

八月納涼歌舞伎といえば夏芝居。暑い盛り、大幹部が休んでいる間に若手が大役に挑むというものだが、今年は大看板の玉三郎が出演するなど様変わりになっているようだ。

八月恒例の三部制で、第一部は「先代萩」から。「御殿」で七之助が玉三郎の指導を受け女形の大役・政岡に挑んだ。

栄御前を迎えるあたり貫禄不足を感じるが、全編卒なくこなしている。忠義のために死んだ千松と二人きりで向き合い「でかしゃった」と嘆く件は母親の情があふれる。若手ながら独特の存在感で大役を乗り切った。立女形の道が開けてきたのではないか。

幸四郎がこの場の八汐と次の「床下」の仁木の敵役二役。八汐は予想外にいい。低音がうまく操れるようになったからであろう。無言の仁木も貫禄が付いてきており結構。

七之助の甥の勘太郎が千松、長三郎が鶴千代でかわいさと達者な台詞で受けている。

巳之助が荒獅子男之助で荒事の台詞を無事にこなし、児太郎が沖の井で瑞々しい台詞回し。若手が育っている。

扇雀の栄御前。歌女之丞が道益妻小槙。

重い義太夫物だが、爽快感の残る好舞台になった。

もうひとつの「闇梅百物語」は狸(彌十郎)や河童(種之介)傘(歌昇)、雪女郎(扇雀)ら妖怪変化らが登場する滑稽な物語。幸四郎が読売幸吉実は白狐で出演している。納涼歌舞伎らしい小品。

 

第二部は幸四郎の弥次さん猿之助の喜多さんで恒例になった「東海道中膝栗毛」。一九の原作を杉原邦生が構成。戸部和久が脚本。石川耕士と猿之助が脚本・演出を手掛けている。

過去にはラスベガスや地獄など奇想天外な旅をしたが、4年目の今回は借金取り集団に追われながらのお伊勢参り。本水の立ち回りあり、宙乗りありで、にぎやかにスピーディーに滑稽な旅を続ける。

幸四郎は戸乱武(トランプ?)に、猿之助は風珍(プーチン?)になるなど舞台を走り回る。カマキリなど昆虫の研究で知られる中車が火付け盗賊改め鎌川霧蔵、隼人と新悟が与三郎とお富になり、染五郎と團子が雲助の染松と團市で登場するなど笑いの仕掛けも豊富だ。

 

第三部は「新版雪之丞変化」。土部三斎一味に親と財産を奪われた雪太郎が役者・中村雪之丞となり、敵を討つ。三上於菟吉の原作を日下部太郎が脚本・演出補、玉三郎が演出・補綴した。名場面などの映像と舞台演劇を組み合わせたなど一種の連鎖劇である。今や女形の大御所と言ってもいい玉三郎の旺盛な創作意欲に感心する

その玉三郎は、芸の求道者、そして敵討ちの思いを心に秘めた雪之丞を神妙に演じている。

中車が三斎や狐軒老師、盗賊闇太郎など5役。声に工夫がほしいが健闘している。

七之助の秋空星三郎。やゑ六の秋空鈴虫も好演。

12日、歌舞伎座所見。

 

 

 

2019年8月13日 (火)

高砂会評

歌舞伎俳優・中村梅玉率いる高砂屋一門門弟が8月910の両日、東京・水天宮の日本橋劇場(日本橋公会堂)で初公演、高砂会を開いた。

会を開いたのは梅蔵、梅乃、梅丸、梅秋、梅寿の5人。

幕開き「式三番叟」は梅蔵の翁、梅丸の三番叟の素踊り。「三社祭」は梅秋の悪玉、梅寿の善玉。続き「保名」は梅乃の保名。「子守」は梅丸が子守お梅。それぞれ気を引き締めて踊る。

狂言舞踊「釣女」は梅蔵の醜女、梅秋の太郎冠者、梅寿の大名、梅乃の上臈。

それぞれ台詞もなかなのもので、笑いを取った。

最後は梅玉の司会で各人が挨拶したが、簡単な一言にもかかわらず、大きな役を演じた喜びが伝わり、心和む幕切れであった。

メンバーの多くは普段脇役を勤めているが、このように歌舞伎への情熱を持った人たちが歌舞伎を支えているのだと思う。

高砂会の第二回開催を期待する。

10日正午の部所見。

2019年8月10日 (土)

焦点・日本舞踊・市川會の三代襲名

人気歌舞伎俳優・市川海老蔵の主催する日本舞踊市川流のリサイタル・市川會が8月3日から12日まで東京・渋谷のシアターコクーンで開かれている。

今回は海老蔵の叔母で同流派の総代を勤めてきた市川紅梅が初代市川壽紅に、妹で補佐を勤めてきた・市川ぼたんが四代目市川翠扇に、そして長女・堀越麗禾が四代目市川ぼたんにそれぞれ名を改める。めでたい三代襲名披露の大イベントなのだが、10日連続公演とは異例。日本舞踊の現状から見ると快挙と言っても過言ではない。海老蔵の現在の勢いを示した公演である。

7日正午の公演を拝見したが盛会であった。

「寿式三番叟」は壽紅の翁、翠扇の千歳で荘重に幕を開けた後、海老蔵の三番叟は力強く足を踏む。この人らしい三番叟である。

続いて能楽師を招いて祝言曲「高砂」を舞囃子で聴かせた。高尚を好む九代目市川團十郎を意識したのだろうか。

襲名の「口上」で座頭役の海老蔵は時代風のかしこまった口調で話しを運ぶのだが、壽紅に挨拶を促すときに「おばちゃん、よろしく」と砕け、和ませる。

続いて海老蔵の幼い長男・堀越勸玄の「玉兎」とぼたんの「羽根の禿」のかわいい踊りに場内が沸く。

最後は翠扇が大曲「京鹿子娘道成寺」に挑む。幕切れで「待ちやーがれ」の大音声とともに客席通路を通って海老蔵扮する大館左馬五郎が押し戻しで登場、派手な幕切れを作った。

筆者は5月に出版研究センターから「十二代目市川團十郎の世界」を上梓した。同書で十二代目團十郎は日本舞踊・市川流を熱く語り、また日本舞踊普及に活躍したことを紹介している。

海老蔵は来年5月、父・十二代目の後を継ぎ十三代目を襲名する。今回の市川會を見ていると、父同様、日本舞踊普及発展に貢献してくれるものと思う。=敬称略

(伝統文化新聞にも掲載します)

2019年7月18日 (木)

焦点・歌舞伎鑑賞教室インスタ4300超え

歌舞伎普及のため、1時間ほどの演目を解説付き、しかも安価で見せる国立劇場(東京・半蔵門)の歌舞伎鑑賞教室が、今年も6月、7月の2か月にわたり上演された。

六月は虎之介らの解説「歌舞伎のみかた」のあと「神霊矢口渡」。鴈治郎が渡し守頓兵衛を熱演。壱太郎のお舟、虎之介の新田義峰が瑞々しく、光った。

7月は新悟と玉太郎の解説。芝居は「車引」と「棒しばり」。松緑が松王丸と次郎冠者で、いずれも主役の任を果たした。坂東亀蔵の梅王丸と太郎冠者、新悟の桜丸。松江の時平と曽根松兵衛いずれも若々しい舞台になった。

ところで歌舞伎鑑賞教室は高校生を対象に国立劇場の開場翌年(昭和42年)から始まり、近年は一般にも一部開放し、この7月公演は第96回目となる。昨年で観客動員600万人を超えたという。

歌舞伎普及に貢献しているのは間違いないが、一昨年6月公演からスマホを使った、正確に言えばスマホを使わせて普及を図る戦術を始めている。

芝居では撮影禁止が普通なのだが、解説の時間に撮影を許可しているのだ。7月も、解説者が「1分間だけ写真を撮っていいですよ」と撮影を許可「#歌舞伎みたよ」とネット上への掲載を要請すると、高校生たちは一斉にスマホを取り出し撮影を始めた。

では、このうちどれほど「♯歌舞伎みたよ」がネット上に掲載されているのか。

手がかりは国立劇場ホームページにある。

トップページのアカウントを見ると、インスタグラム件数は7月18日現在で4350とあった。鑑賞教室以外のも多少あるらしいが、一昨年6月以来の掲載数に近いようだ。

この何倍もの友人がこれを見る可能性がある。インスタグラムのほかツイッターでの発信もある。

歌舞伎上演劇場の周辺にいると歌舞伎ブームのようだが「歌舞伎という言葉は聞いたことがある」程度の認識しかない人も多い。ネット上拡散作戦の成功を期待する。=敬称略

(伝統文化新聞にも掲載します)

2019年7月11日 (木)

歌舞伎座七月大歌舞伎評

昼夜で海老蔵が活躍。今年も海老蔵公演の趣。

昼の部は「高時」から。

右團次の北條高時。権力者の横暴、横柄さを熱演している。

次は池田大伍の新歌舞伎「西郷と豚姫」。

いかついイメージの立役、獅童が女形、しかも豚姫とあだ名されるお玉で、優男の錦之助が太い眉の豪放磊落な西郷というから、笑いを誘う芝居になりはしまいかと恐れたがシリアスな好舞台になった。

獅童は容姿に劣等感を持つ女性のいじらしい恋心を丁寧に演じている。3年前「嵐の夜に」で情が出せるようになったが、今回もよく出ている。

錦之助の西郷も豪胆でいい。

さて、これからが夜の部の終わりまで海老蔵奮闘公演。

「素襖落」は海老蔵の太郎冠者。

狂言らしい台詞回しで軽く笑いを取る。ただしこれはまだまだ助走。

獅童の大名某。児太郎の姫御寮。

昼の最後は「外郎売」。

海老蔵の外郎売。お家芸歌舞伎十八番のためか力が入る。長男・堀越勸玄を貴甘坊の役で連れて出る。勸玄が外郎売の早口言葉を数分間もかわいく語る。客席は拍手喝采というより興奮のるつぼだ。

一昨年七月、前月に母を失ったばかりの勸玄が舞台に立った。その時、女性客は勸玄の母になりきり、あるいは祖母になりきっているような異様な雰囲気であった。

今月もまだその雰囲気が続いている。早口言葉を無事に言い終えることが出来るかどうか。幼いわが子、わが孫を心配するような女性客の熱気が充満していた。

梅玉の工藤。魁春の大磯の虎。獅童の小林朝比奈。雀右衛門の化粧坂少将。児太郎の小林妹舞鶴。

夜の部は「星合世十三團 成田千本桜」の通し。

タイプの異なる三立役、知盛・権太・忠信を立派に勤めることは至難の業とされる義太夫狂言「義経千本桜」を織田紘二、石川耕士、川崎哲男、藤間勘十郎が補綴・演出。海老蔵が上記三役を含む十三役を演じ分け、疾走した。

三立役のほか、若衆(小金吾)、親父(弥左衛門)、さらに女形(卿の君)など幅広い役を演じ、宙乗り、早替わり、大立ち回りであっと言わせる。海老蔵の魅力満載の舞台である。

特によかったのは知盛。さっそうとした銀平、知盛の正体を顕してからの勇者ぶり。豪快な入水から天に上る宙乗り。わくわくさせる。

その他の役では、もう少しじっくりやってもらいたいものもあるが、本作はスピードが命だから仕方あるまい。

宙乗りに早替わりというと、かつては猿翁の専売特許のようなものであったが、近年やや影を潜めている。海老蔵はその伝承をも念頭に置いているのであろう。重要な歌舞伎の要素なのだから。

こう書くと海老蔵一人芝居に思われるかもしれないが、そうではない。

ベテラン梅玉が品格のある義経、魁春の典侍の局、左團次が重々しい梶原景時で舞台に安定感を与えている。雀右衛門の静御前、萬次郎の尼妙林、右團次の相模五郎も好演である。

8日所見。

2019年7月 4日 (木)

新橋演舞場七月公演「笑う門には福来たる」評

副題が「女興行師 吉本せい」で、お笑いの大手企業・吉本興業の創業者・吉本せいの半生記。

藤山直美が5年前の初演に続き、せいを演じている。病後初舞台となった昨年の「おもろい女」で天才漫才師・ミスワカナを笑いと影で造形したが、今回は笑いと情で演劇の醍醐味を堪能させた。

せいは成功者だが、夫、娘、息子、恋人に先立たれる。相次ぐ悲しみの中にそれぞれの情を描いていく。

随所に芸達者ぶりを披露するが、建前を語る台詞の末尾で凄みを効かせ、本音を感じさせて笑わせる芸は余人をもって代えがたいものである。

田村亮の道楽の治まらない夫・泰三、林与一の破天荒な桂春団治ら周囲も好演。喜多村緑郎はせいの弟・正之助で冷酷な経営者の一面を演じた。

柔らかく優しい大阪弁で笑いと涙を包んだ舞台であった。そういう大阪弁が次第に失われつつあるような気がする。そうだとすれば、保存の意味で貴重な舞台でもある。

4日所見。

2019年6月19日 (水)

焦点・令和初の人間国宝の会

伝統芸の最高峰を集めた人間国宝の会が6月16日、東京・国立劇場小劇場で開かれた。毎年この時期に開かれ今年は13回目だが、令和ではもちろん初めてである。

参加した人間国宝は第一回から会を牽引している新内節・新内仲三郎、毎回参加している囃子方・堅田喜三久、そして一中節・宇治紫文、義太夫節・竹本駒之助、狂言・野村万作の5人である。

順を追ってみる。

幕開きは一中節「小春髪結の段」。紫文は小春の哀しい心の深淵を語り聴かせた。三味線は宇治紫卯。

ここで仲三郎と織田紘二の解説トーク。

次の「関取千両幟」は仲三郎構成による新内と義太夫の掛け合い。浄瑠璃では仲三郎長男・多賀太夫が関取女房を、女流義太夫の駒之助が関取・猪名川を語り、三味線は仲三郎と義太夫節の鶴澤津賀寿が掛け合いした。

これに本職の相撲呼び出しや江東相撲甚句会の相撲甚句も加わり、重層的でドラマチックな舞台になった。

続く、喜三久構成の囃子組曲「鷹」は喜三久の小鼓、堅田喜三郎の大鼓、風聲晴久の笛。鷹の生態を描き、格調と洒脱が交錯する一曲。

最後は狂言「伊文字」で妻乞いの話。万作が女と使いの者の二役で枯淡の演技を披露。孫の裕基が主で狂言師としての成長ぶりを見せた。高野和憲が太郎冠者。

演目終了後、木遣り連中が登場、手締めを行ったが、高い芸で競い合ったこの会を和ませた。

人間国宝というアピールしやすい通称を最大限に生かして伝統芸能の普及を図るのが本会の趣旨であろう。昨年から主催者が千代田区から民間の人間国宝の会に変わったので心配したが、令和最初の公演は無事に終わったようである。来年以降も継続することを期待する。=敬称略

(伝統文化新聞にも掲載します)

2019年6月 9日 (日)

歌舞伎座六月大歌舞伎評

昼の部は大看板2人がそれぞれ時代と世話の名作で見せる。

まず吉右衛門が当たり役のひとつ「石切梶原」の梶原平三。花道の出から時代物の格調を漂わせる。理非曲直をわきまえた生締物の爽快さがある。「刀の目利き」「石切」の名場面は瑞々しさより枯淡と評した方がいいだろう。

又五郎が大庭三郎。平三に対峙する人物の重みはあるものの、悪の匂い乏しい。

歌六の青貝師六郎太夫。いまさらだが、老けは堂に入ったもの。米吉が娘梢。歌昇の俣野五郎。

もうひとつは仁左衛門の「封印切」。

敵役八右衛門で印象深い演技を見せたが、今回は主役の忠兵衛。花道の出から優柔不断で頼りない男であることを強烈に印象付ける。

和事味をアピールしながら封印切りの悲劇に突き進む。脇役にも恵まれ見ごたえのある舞台を作った。

孝太郎の梅川は忠兵衛への思いが素直に出た。

愛之助が八右衛門。忠兵衛役の仁左衛門に貫禄負けしているが、敵役の使命は十分果たした。

秀太郎の井筒屋おえん。今や余人をもって代えがたい茶屋の女将である。彌十郎の槌屋治右衛門。

ほかに幸四郎、松也、松江、東蔵の「寿式三番叟」、魁春、雀右衛門、児太郎の「女車引」。

 

夜の部は、まんがを原作にした三谷幸喜作・演出の通し狂言「月光露針路日本」。

江戸時代、伊勢の船頭光太夫ら17人の乗った船が難破、ロシアに漂着、苦難の末、10年後に帰国するという冒険物語。三谷は苦難の旅にもかかわらず、喜劇作家の本領を発揮し笑いを連発させる。義太夫やツケうちなど歌舞伎の技法を駆使し、犬ぞりの場面など見せ場も作って観客を楽しませた。

幸四郎が光太夫。不屈の精神と情に厚い船頭をダイナミックに演じた。

猿之助は庄蔵とロシアの女帝エカテリーナの二役。兼ねる役者の強みを発揮した。病を得て足を切断しロシアに留まることになった庄蔵が望郷の念に苦しむ件は、名作「俊寛」を思わせる熱演であった。

白鸚は船親司の三五郎とポチョムキン公爵の二役で貫禄を示し、舞台の重しになった。歌舞伎外から八嶋智人が博物学者ラックスマンで出演、芸達者なところを見せた。

ほかに愛之助、彌十郎、松也らの出演。

3日所見。

2019年5月20日 (月)

焦点・「十二代目市川團十郎の世界」の旅

五月晴れの加賀路を旅した。

「十二代目市川團十郎の世界」が5月末に出版研究センターから出版されることになり、ゆかりの地を訪ね、取材に協力してくださった方々へのお礼を申し上げるためである。

本書の第一章は以前出版した「家元探訪」の中の市川團十郎さんのインタビュ-部分、第二章は團十郎夫人堀越希実子さんのインタビュー。そして第三章では團十郎さんのあまり知られていないいくつかの活動を紹介している。その中で彼は長年石川県小松市の子供歌舞伎を指導、金沢市の金沢学院大学で客員教授として講義をしていたのだ。

真夏を思わせる強い日差しの11日、小松市は「お旅まつり」で賑わっていた。

まずJR小松駅前にあるこまつ芸術劇場うららを訪ねた。團十郎さんが設計アドバイザーを務めた、花道が設置できる約800席の中劇場である。地元の木材を生かした落ち着いた雰囲気。展示室には團十郎さんの「勧進帳」の舞台写真や押し隈が展示されていた。

午後になると大通りの交差点に作られた特設会場に山車6台が終結、曳山子供歌舞伎が上演された。「碁太平記白石噺」と「恋飛脚大和往来」の名場面。

女子を中心にした小中学生が熱演。けなげでかわいい演技に拍手が集まった。この子たちの先輩を團十郎さんが指導したかと思うと感慨深いものがあった。この日、午後と夜の公演で2万人動員したそうだ。

13日には金沢市郊外の高台にある金沢学院大学を見学した。團十郎さんが平成3年に講義した講堂を見せてもらった。当時この大学は女子大であった。てれながら話す團十郎さんを想像しながらキャンパスを後にした。

旅行中しばしば道や交通機関を尋ねたが、皆さん親切であった。團十郎さんの温かい人柄と重なっているような気がしてならない。(伝統文化新聞にも掲載します)

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