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2013年2月26日 (火)

文学座「セールスマンの死」評

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<見>やり手のセールスマンだったウィリー・ローマンは60の坂を越え、営業成績もふるわないため、基本給のない地方回りの歩合制社員に落とされている。家では自立できない2人の息子に悩まされ、数々のローンに追われている。自宅近くを担当区域にしてほしいと頼みにいくが、口論となり、歩合の職まで失う。加えて、期待の長男ビフに裏切られ、自ら命を絶つ。戦後アメリカの競争社会の矛盾、家庭の崩壊を描いたアーサー・ミラー1949年初演の傑作である。
 日本では、劇団民芸・滝沢修がウィリーをしばしば演じ、新劇を象徴する伝説的社会派の名作として知られるようになった。その後、久米明、仲代達也ら大物俳優がこの役を務めてきた。
 今回は、文学座が芸達者な中堅俳優・たかお鷹をウィリーに抜擢、酒井洋子の新訳、西川信廣の演出で不朽の名作に挑んだ。
 重鎮、名優によるウィリーは圧倒的存在感で社会の歪みに抵抗し敗れる悲劇の英雄像を作り上げたが、たかおのそれは仕事や家族に翻弄される等身大の凡人である。
 凡人だからこそ、低賃金でもいいから雇用してほしいと懇願する哀れな姿にリアリティがあり、悲しい。安価な売り物をエサにして仕事先の女性に手を出すちっぽけな好色ぶりにも納得がいく。自分では到底獲得できない栄光の夢を息子に託す父親としての姿は泣かせる。
 たかおの起用は成功した。
 ウィリーの妻リンダを演じた富沢亜古の好演も見逃せない。この妻も平凡な女性だが、心を病み、自殺願望が芽生え始めた夫を優しくしっかりと包み込む。夫の死で家のローンを払い終えたことを語るラストは悲痛である。
 長男ビフの鍛冶直人は父親の期待に応えられない悲しみ、父親の浮気現場を見てしまった衝撃に苦しむ息子の心情を素直に演じている。
 ウィリーの兄ベンを幻影のように演じた三木敏彦、ウィリーの愛人を色っぽく演じた古坂るみ子、ウィリーの次男で遊び人ハッピーの林田一高も好演した。
 競争と格差の社会、親離れできない子供たちと家庭崩壊。半世紀以上前の作品が現代日本にあまりにも一致していることに驚く。
25日所見。
――3月5日まで、あうるすぽっと。
(写真は、たかお鷹と富沢亜古)=文学座提供

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