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2014年8月10日 (日)

歌舞伎座・八月納涼歌舞伎評

<見>八月は恒例の三部制。三津五郎、橋之助、扇雀に獅童、勘九郎、七之助らを加えた花形歌舞伎。怪談や恐い話など、夏らしい芝居が並ぶ。
 第一部は、文豪・谷崎潤一郎の戯曲「恐怖時代」で始まる。33年ぶりの歌舞伎上演。元芸者で大名・春藤釆女正(橋之助)の愛妾・お銀の方(扇雀)は、家老・春藤靭負(彌十郎)や医者・細井玄沢(亀蔵)を色仕掛けで仲間に引き込み、お家横領を企んでいる。さらに、女中・梅野(萬次郎)の若い愛人で小姓の伊織之介(七之助)とも密かに愛し合っている。諫言した家臣・氏家(橘太郎)と菅沼(橋吾)を生殺しにし、伊織之介と真剣勝負させて梅野を死なせ、最後はお銀と伊織之介が心中するなど、凄惨な場面が続く。怪談ではないが、色と欲と狂気で背筋の寒くなる「恐怖」物語である。
しかし全体的にリアリティ不足のため、コミカルに感じられるところもある。これは演出(故・武智鉄二、斎藤雅文)も計算に入れていたのだろうか。小心な茶坊主・珍斎の勘九郎が面白い。
もう1本は、龍(獅童)と虎(巳之助)がケレンを見せながら踊る竹本舞踊の小品「龍虎」。
 第二部はしっかりした芝居2本。最初は、越後の雄・長尾輝虎(橋之助)が敵対する甲斐・武田信玄の軍師・山本勘助を味方にしようと、勘助の母・越路(萬次郎)に自らの手で配膳するが、それを潔しとしない越路がその膳を足蹴にする「輝虎配膳」。萬次郎の越路に風格と押し出しがあり立派。三婆のひとつにふさわしい越路である。三婆役役者の誕生がうれしい。橋之助も堂々とした輝虎で、2人が厚みのある時代物を作る。若い児太郎が、直江山城守の妻・唐衣を好演。勘助妻・お勝に扇雀、山城守に彌十郎。 
 続く大佛次郎作、大場正昭演出の「たぬき」が、今月最も充実した作品。飲んで騒いだ挙げ句に急死、荼毘に付される寸前に生き返った柏屋の婿養子・金兵衛(三津五郎)は、別人になりすまし、妾・お染(七之助)の裏切りなど人間の裏を知る。三津五郎は喜劇調の中にも、人生の儚さや哀しさを陰影深い演技で見せていく。病気休演以来、出演回数を抑えているようだが、出るたびに納得の芝居を見せている。
 共演陣もいい。太鼓持ち蝶作の勘九郎は、前回この役を演じた父・勘三郎の後を継ぐ形。軽妙であり、金兵衛のそっくりさんの出現に驚くあたりがうまい。
 芸者・お駒の萬次郎、金兵衛の女房・おせきの扇雀、叔父・宗右衛門の彌十郎、妾・お染の七之助、その情夫・三五郎の獅童も好演である。棺桶の中で生き返った金兵衛を手助けする隠亡の多吉の山左衛門もベテランらしい味わいを出している。 
 第三部は、常磐津「勢獅子」から。鳶頭の三津五郎、橋之助、彌十郎、獅童、勘九郎、巳之助、芸者の扇雀、七之助ら花形総出でにぎやかに踊る。
 今月最後は、円超の人情噺「怪談乳房榎」。「訪米歌舞伎凱旋記念」「三世実川延若より直伝されたる十八世中村勘三郎より習い覚えし」と長い角書きが付く。7月のニューヨークで上演の凱旋公演であり、三代目延若から勘三郎に伝わった芸を長男・勘九郎が演じる公演であることを示している。
 絵師・菱川重信(勘九郎)の妻・お関(七之助)を無理やり我がものにし、重信を殺した弟子・磯貝浪江(獅童)が、重信の霊により救われた重信の子・真与太郎に後年討たれる。早替わりや本水の大立ち回りありの、ケレンで見せる娯楽作品である。
 勘九郎の絵師・重信、下男・正助、小悪党・うわばみ三次の三役早替わり、演じ分けが見どころ。勘九郎三度目のこの三役。浪江に脅され、重信殺しを手伝う小心者の正助は、父・勘三郎の芸を受け継ぎ、純朴さもあり、よく出来ている。三次は、勘三郎とはまた違った小悪党ぶりで、これも悪くない。残る一役・重信に芸術家としての高踏的雰囲気が足りない。滝の大立ち回りのあと、最後にもう一役、作者の円朝役で登場、うまく物語を締めくくった。勘九郎の四役奮闘公演。
 獅童も三度目の浪江。初演は色悪というより、豪傑の趣だったが、今回は色悪の感じが出てきている。序幕に小山三が茶店女房で顔を出すが、相変わらずの人気だ。
7日所見。
――27日まで上演している。

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