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2015年10月 5日 (月)

芸術祭十月大歌舞伎評

<見>昼の部は「音羽嶽だんまり」で始まる。盗賊音羽夜叉五郎(松也)、弟分鬼童丸(尾上右近)、源頼信(萬太郎)、平井保昌の娘小式部(児太郎)、平将門の遺児良門(権十郎)、七綾姫(梅枝)が暗闇の中で宝を奪い合う。幕開きだが若い松也が主役。抜擢に応え、瑞々しく力のある花道の引っ込みを見せる。
 次は二代目松緑二十七回忌追善狂言の「矢の根」。孫の当代松緑が五郎。このところ台詞がよくなっているが、歌舞伎十八番の荒事ということで声を大きくするためか、声がいまひとつ。力感はある。藤十郎が十郎でほんの少し顔を出し、二代目を追善した。
 「一條大蔵譚」は仁左衛門の大蔵卿。「檜垣茶屋」で作り阿呆を見せる件は、ただ笑を取るだけでなく、柔らか味も見せる。「奥殿」では、谷太夫の竹本にうまく乗り、源氏方であることを顕す。軽やかな大蔵卿である。
時蔵の常盤御前、菊之助の鬼次郎、孝太郎の女房お京。
 昼の最後は菊五郎が左官長兵衛を勤める「文七元結」。家を出たまま帰らない娘お久を案じる「長兵衛内」では酒と博打に溺れる長兵衛の貧しい日常を活写、「角海老」では長兵衛を助けようと自ら身を売りに行ったお久と対面、泣かせる。お店の大金を失い身投げしようとする手代文七に娘の身代金をやってしまう「大川端」では江戸っ子の心意気を見せる。菊五郎は各場に江戸の風を吹かせ、充実した人情話にしている。
 時蔵の長兵衛女房お兼もやかましくて情があってはまり役。前演目の常盤御前とは一転して庶民的な役柄だが、こちらの方がうまい。
 玉三郎の角海老女房お駒。左團次の和泉屋清兵衛、松緑の鳶頭伊兵衛、團蔵の手代藤助、梅枝の文七、右近のお久と周囲もそろう。松太郎も家主甚八を好演。
 夜の部は玉三郎の「阿古屋」から。遊君阿古屋は源氏方秩父庄司重忠に愛人平景清の行方を追及すされるが、琴、三味線、胡弓を心乱さず演奏し、行方を知らないことを証明する。三曲を演奏しなければならないため、女形の難役中の難役である。
静かに肚で演じる玉三郎は、景清への恋慕の情を三種の楽器の糸に乗せて表し見事。華麗な衣装が色鮮やかな舞台に映え、今月、「文七元結」に次いで見応えのある舞台になった。歌右衛門亡きあと、余人をもって代えがたい存在である。
 菊之助が重忠。阿古屋を問い詰める重みはないが、美しい口跡でさわやかな捌き役になった。亀三郎が敵役の岩永。台詞は竹本が語るので、この人の味は出にくいが、面白い人形振りで笑を集める。 
最後は二代目松緑追善の「髪結新三」。当代松緑が世話物の大役新三に挑戦する。動きが若々しく売出し中の小悪党の雰囲気があっていい。ただ、気負い過ぎてマイナスになっているところもある。「白子屋見世先」では、勢いよく手代忠七に店の娘お熊との駆け落ちを勧めるが、これではだまされにくいのでは。忠七を傘で打つ「永代橋」。リアルに怒鳴りつけるので、芝居らしさがない。家主長兵衛に遣り込められる「新三内」は家主との間合いもよく、笑を取った。
 追善のご馳走がふたつ。菊五郎の肴売新吉。天秤棒を担いで花道を出てくると客席は大喜び、カツオ売りの声も神妙。仁左衛門の加賀屋藤兵衛。仲人のあいさつだけで引っ込むが、場内の喝采を浴びた。
秀太郎が白子屋後家お常。時蔵が忠七。今月は公家の妻、貧しいおかみさん、大店の手代と忙しい。左團次が重量感のある家主長兵衛で、團蔵の弥太五郎源七も迫力がある。秀調が持ち役の車力の善八で人のよさを出す。梅枝が白子屋お熊、亀寿の勝奴。
2日所見。
――25日まで歌舞伎座で上演。

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